年功序列主義が根強かった日本の社会ですが、近年は実力主義にシフトして、成果に見合った給与を支払うという考え方になりつつあります。
そこで注目されているのが、成果が報酬に反映される年俸制。
海外や外資系では主流な給与形態ですが、日本ではまだ導入率は高くありません。
今回は、年俸制の仕組みや基本ルール、導入時のポイントについて解説していきます。
この記事の目次
年俸制の制度内容
年俸制とは、年間の報酬総額をあらかじめ決定する給与形態のことです。
制度の特性上、成果が給与に反映される「成果主義」と一緒に採用されることが多くなっています。
まずは、年俸制の具体的な制度内容について知っていきましょう。
年俸額の決め方と支払い方
年俸額の決め方は、企業によって異なります。
平等に年俸額を算出できるよう、賃金規定が定められている場合もあれば、経営者側が年俸額を提示し、従業員がそれに合意することで決定されることもあります。
支払い方は全額一括ではなく、年俸額を分割して毎月支払っていきます。
これは、労働基準法の第24条で「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められているためです。
支払日は、年俸制と月給制を両方採用している企業の場合、月給制の社員の支払日と合わせることが多くなっています。
ボーナスの支払い方
会社ごとの規定にもよりますが、年俸額はボーナスも含めた金額に設定されることが多いです。
その場合、支払い方には以下の2パターンがあります。
- ボーナス額を含む年俸を12分割し、毎月同額を支払う
- ボーナス額を含む年俸を16分割して毎月16分の1ずつ支払い、16分の2ずつを年2回ボーナス月に支払う
また、年俸にボーナスを含まない場合は、業績に応じたボーナスを別建てで支払うことになります。
残業代の支払い方
年俸制は残業代が不要と考えている企業も多いですが、実はそうではありません。
裁量労働制や、事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合以外は、年俸制でも割増賃金の支払いは必要です。
年俸制の場合の残業代は、割増賃金を固定額で支払うという形が多くなっています。
ただし、以下に該当する場合には残業代は支払われません。
- 裁量労働制が適用されている場合
- 管理職の場合
- 一定の残業時間を想定して年俸額が計算されている場合(想定以上の残業時間分には支払いが必要)
年俸制でどう変わる?月給制との違い
それでは、年俸制を採用すると、月給制とどのような点で違いが出るのかを解説していきます。
成果重視の給与形態になる
年俸制を採用している企業では、「基本年俸」と「業績年俸」の2本立てになっていることが多いです。
基本年俸は月給に相当する報酬、業績年俸はその社員が挙げた成果に対する報酬です。
年齢順に上がっていく基本給だけではなく、成果に応じた報酬が得られるため、有能な人ほど給与が高くなる実力主義の会社になります。
そのため、従業員が仕事に対して高いモチベーションを持てることが、年俸制導入のメリットと言えます。
経営計画が立てやすい
年俸制は、あらかじめ1年分の給与額を決めておくので、人件費の見通しが立ちやすいです。
そのため、資金繰りなどの経営計画が立てやすいことは、経営者にとってメリットと言えるでしょう。
逆に従業員から見ると、あらかじめ年収がわかっているのでライフプランが立てやすくなります。
年度中の人件費変更ができない
一度決めた年俸額は、その年度中は変更することができません。
つまり、昨年の業績が良かったため高い年俸を設定した従業員が、今年は成績が振るわなかったとしても、途中で減給することはできないのです。
もちろん、逆に予想以上の成果を上げられても、その年度中は給与が上がることはありません。
これは、経営者側・従業員側の双方にとってリスクやデメリットがあると言えます。
年俸制でのトラブルと対応方法
次に、年俸制で起こりがちなトラブルと、その対処方法について見ていきましょう。
残業代の不払い
先にもお伝えしましたが、「年俸制=残業代不要」と思っている経営者は多いです。
そのため、法律上は残業代の支払いが必要なケースにも関わらず、不払いになってしまうということも。
これを解決するためには、経営者側・従業員それぞれが年俸制の仕組みについて正しい知識を持つ必要があります。
また、固定残業代の有無や、それには何時間分の残業を想定しているかなどを、契約前に明確にしておくことが重要です。
年俸額の大幅減額
年俸は、更改の際に前年より減額されることもありえます。
ただし、年俸額は企業と労働者の合意が原則なので、企業側が一方的に決めることはできません。
納得のいかない減額があった場合には、交渉や離職という選択肢もあります。
どうしても交渉がうまく進まない場合は、労働基準監督署など外部機関への相談も検討しましょう。
年俸制での欠勤控除
年俸制では年間の給与額があらかじめ決まっていますが、欠勤・遅刻・早退や休職期間があった場合はその限りではありません。
具体的なルールは会社ごとの賃金規定によりますが、裁量労働制ではなく、当初の想定より働かない日が多かった場合には、そのぶん報酬が減るケースがほとんどです。
欠勤控除のルールについても、会社側と労働者側で認識を合わせておくべきでしょう。
年度中の退職・解雇はどうなる?
年俸制の場合でも、年度中の退職や解雇は可能です。
ただし、月給制の会社では退職の通知は退職日の2週間前までですが、年俸制の場合は退職日の3ヶ月前までの通知が必要です。
会社側から解雇する場合、30日前までの予告または30日分の給与の支払いと、解雇に足る正当な理由が必要となります。
年俸制の導入時のポイント
それでは、年俸制を導入する時に押さえておくべきポイントについて解説します。
明確な評価制度の作成
年俸の算定基準が曖昧だったり、評価者の主観による部分が大きいと、従業員間で不公平感が生まれがちです。
年俸制を実際に導入する前には、明確かつ公平に判断できる評価制度の作成が必要となります。
一般的な主要評価ポイントは「成果の実現度」「発揮した能力」「服務態度」の3点。
さらに、成果の実現度はパーセンテージを明確にしたり、能力や態度については「専門知識」「業務処理」「責任感」「ストレス耐性」など、細かく区切って総合的に判断しましょう。
査定や就業規則の仕組みを整える
評価項目が決まったら、その達成度を公正に評価する仕組みが必要です。
仕事に関連する行動のみを評価する、うわさを評価に反映させないといった基本ルールはもちろん、誰にでも客観的に基準がわかり、納得感のある評価方法が望ましいです。
また、査定の仕組みを就業規則として明文化し、その内容を従業員に開示して理解を得ることも重要となります。
労使間での合意
年俸制に限らず、就業規則の変更には労使間での合意が欠かせません。
労働組合の代表者か、労働組合がない場合には従業員の過半数が支持する人を代表者として、年俸制に関する就業規則の変更について合意を得ましょう。
就業規則の届け出を行う
就業規則に変更があった場合、管轄の労働局に「就業規則変更届」を提出します。
その際、労使間の合意を得たことを証明するために「意見書」も合わせて提出しましょう。
変更届が受理され、従業員に周知をすると、そこで初めて年俸制が導入できることになります。
年俸制導入企業の例
すでに年俸制を導入している企業には、以下のような会社があります。
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- P&G Japan
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- 株式会社サイバーエージェント
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- 株式会社サイバー・バズ
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- CROOZ SHOPLIST株式会社
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- 株式会社カプコン
など
全体的に、外資系の会社や、IT企業など新しい会社で導入されている傾向があります。
こういった会社は、年功序列にとらわれない成果主義であることや、裁量労働制を取り入れやすい働き方をしていることも特徴です。
まとめ
年俸制を採用する会社は、年々増えてきています。
会社側・従業員側の双方にメリットがある一方、日本ではまだ新しい制度のため、これから仕組み作りが必要な部分も。
実力主義の評価制度を作っていきたい会社では、年俸制の導入を検討してみてはいかがでしょうか。