株式会社ORJは、特定技能の外国人の支援を行う、登録支援機関として事業を展開するリーディングカンパニーです(外国人材の管理実績20,000人:2021年12月末時点)。常務執行役員事業戦略本部本部長の豊田友芳氏に、外国人雇用における管理のポイントや注意すべきことを伺いました。
特定技能外国人や技能実習生を雇用するとき、企業が担わなければならない業務は採用からインフラ準備・労務管理・生活支援まで多岐に渡ります。管理負荷とコストの削減は人事労務部門の重要な課題です。専門的なノウハウのある企業にアウトソーシングすることが、効率的な手段といえるでしょう。
この記事の目次
製造系アウトソーシング企業から外国人雇用のORJへ
シロフネ編集部:まず御社と事業についてお聞かせいただけますか。
豊田氏: ORJは株式会社アウトソーシングという東京証券取引所プライム市場に上場する企業のグループ企業です。製造業を中心に、人材派遣ならびに関連する支援全般を提供する事業体になります。
シロフネ編集部:外国人領域に展開するに至った経緯を教えてください。
豊田氏:製造業の業界では、同一部署内で3年以上派遣契約を締結できなくなるという労働者派遣法の規制によって、いわゆる「2009年問題」が生じました。法律の改正も多かったですね。上場している大手メーカーの場合、1,000人規模で派遣社員を受け入れているような企業もあったのですが、そのような企業の中には2009年問題で派遣社員を直接雇用せざるを得なくなった企業も多く、その対応で企業の人事総務部がパンクする状況でした。そこで、人事総務部の仕事を代行するビジネスモデルとしてORJを立ち上げたんです。
シロフネ編集部:創業時の事業は、どのような内容でしたか。
豊田氏:契約社員(期間従業員など)を採用する企業から依頼を受け、採用業務の代行や入社関連手続き、配属後の定着支援などです。もちろん、入社前の赴任対応フォロー、住宅準備、通勤時の送迎代行なども行いました。
シロフネ編集部:創業当初から外国人向けの事業だったのでしょうか。
豊田氏:いいえ。最初は日本人向けサービスが主でした。少子高齢化により日本人採用が徐々に難しくなり、外国人の雇用にシフトして、いまでは8~9割が外国人雇用の関連事業になりました。
外国人雇用の事業は、タイの大洪水による従業員の受け入れから
シロフネ編集部:日本人から外国人雇用にシフトしたのはいつ頃でしたか?
豊田氏:2011年のタイ洪水が大きなきっかけになりました。工場がみんな水に浸かってしまったんです。ある企業様のアウトソーシングを請けていましたが、現地法人の工場が洪水のために休業になってしまったことがありました。
現地従業員は自宅待機となったのですが、結果として生産に影響がでてしまいました。そこで、一時日本に来てもらい、日本の工場の手伝いをしてもらえないかという相談をいただきサービス提供を行いました。その際、企業・行政・弊社が連携し、約2,000人の受入を行いまして、その後、外国人受け入れの代表的な企業として、さまざまな企業から相談をいただくようになりました。
シロフネ編集部:現在はどのような企業を支援されていらっしゃいますか。
豊田氏:特定技能外国人の方の受入れ分野で申しますと飲食料品製造が60%、自動車整備が15%。その他には、航空、介護、外食とさまざまです。コロナ禍になって、エッセンシャルワーカーの需要も増えました。2020年頃から農業も加わりました。将来的にはコンビニエンスストアなどの小売業にも特定技能制度が拡充されれば対応も視野に入れています。
また、特定技能外国人を受け入れ可能な分野は14ありますが、外国人の支援ノウハウはあっても、様々な分野の営業や業界特性などノウハウが蓄積できていませんでしたので、業界団体様や協力会社様と連携しながら営業活動を行っております。特に介護分野では、日本人派遣紹介の株式会社ツクイスタッフ様と協業させていただいております。
株式会社ツクイスタッフ URL:https://corp.tsukui-staff.net/globalhot/
通訳者が聞き出すホンネが定着率の向上に
シロフネ編集部:ORJのサービスの特長をお聞かせいただけますか。
豊田氏:登録支援機関としてさまざまな外国人雇用に関する支援を行っていますが、通訳者によるサポートが大きな特長になります。
ORJでは、200人の従業員数のうち約半分(100人)が外国人です。いわゆる技術・人文知識・国際業務の頭文字を取った「技人国」の通訳者が、外国人の専属通訳として担当します。
シロフネ編集部:職場内でのサポートもありますか?
豊田氏:はい。受入企業様からの要望によって勤務する外国人と同じように作業現場に赴き、必要な作業通訳を行っています。特に製造業などでは1拠点で数十名もの外国人を採用する場合があり、作業教育・安全教育など特に大切な部分については、作業現場での通訳は欠かせません。
シロフネ編集部:言語の壁を取り払うために効果的ですね。
豊田氏:確かにそうなんですが、そもそも言葉が通じないことは大前提。われわれが重視しているのは、その次の「本人の思いが正しく伝わらない」課題の解決です。日本語能力試験の難易度トップのN1レベルであっても、外国人が日本人に日本語でホンネを伝えるのは非常に難しいです。
シロフネ編集部:おっしゃる通りかもしれません。
豊田氏:特に日本語をうまくしゃべれない特定技能の外国人のみなさんのためには、通訳者の配置が大切です。外国人とのコミュニケーションを重視しています。
シロフネ編集部:やはり対面で話すことが大切なのでしょうね。
豊田氏:機械翻訳のガジェットを使っても、心が傷ついている方はホンネを語れないですから。テクノロジーがあっても100%の通訳は難しいですよ。管理に必要なものは、心の声を聞くこと。制度が整っていても相談ができなければ意味がありません。
シロフネ編集部:対応可能な言語としてはいかがですか。
豊田氏:メインとなる言語は8か国語です。たとえばベトナム語、インドネシア語、中国語、フィリピン語、タイ語。スペイン語、ポルトガル語にも対応できます。あとは英語。英語はフィリピンやインドから在留している外国人のみなさんとの会話に使います。
シロフネ編集部:日本語教育の事業も展開されていますか?
豊田氏:以前は日本語学校も自社で運営していましたが、コロナ禍の影響で現在は閉鎖しています。コロナの影響や市場ニーズを確認しながら再開したいと考えています。ただ、初歩的な日本語能力試験のN5~N4レベルであれば通訳者が教育することも可能ですし、N3以上になってくれば当社の日本語講師で教育が可能です。時代的にも学校一か所に集めてという教育方法から、WEBを使った在宅教育に移っていくと考えています。また、自宅で自己学習ができるラーニングツールの活用もすすめています。
派遣社員の管理経験から分かる従業員の気持ち、サポートの難しさ
シロフネ編集部:いま言語の壁とホンネを引き出すことについて伺ったのですが、外国人に限らず、人材の雇用管理においても難しいことではないでしょうか。
豊田氏:難しいですね。私は派遣社員として働いていた経験があり、また、2008年にORJ創立したときには北陸の営業所長として派遣社員を管理する立場でした。つまり、現場の社員も管理者の両方の経験があります。したがって、働く社員の気持ちも管理者の気持ちも両方分かります。
シロフネ編集部:気持ちが通じた、信頼関係ができたときのエピソードがあれば。
豊田氏:ある時、派遣社員ですが、とても態度の悪い方がいました。ある日、夜中の2時ぐらいに「お腹が痛くて死にそうだ」と電話がかかってきたんです。アパートに駆けつけて病院につれていったところ結石でした。点滴を打ってもらって、入院には至らなかったのですが。
シロフネ編集部:よかったですね。感謝されたのでは。
豊田氏:はい。その後、ガラリと態度が変わったんですよ。信頼関係ができたんでしょう。本人が困っているとき、悩んでいるときに、しっかり受けとめてあげることが大切です。その繰り返しが人間関係の絆を形成します。
シロフネ編集部:外国人の方にも同じようなサポートをされているのでしょうか。
豊田氏:専属の通訳者に相談があれば、いつでも連絡していただける体制を取っています。通訳に連絡が取れない時間帯(夜間・休日)でも24時間運営の多言語コールセンターを利用できる体制を整えています。また、病気やケガについては迅速な対応が必要になりますので、どのような体調不良なのかを通訳者がしっかりヒアリングを行い、かかりつけの病院などへ誘導します。診察を受ける場合は、病院の場所を教えることが基本ですが、病院が言語対応できないところの場合は、通訳が同行し対応を行っています。
シロフネ編集部:外国人の方にはとても助かりそうです。
豊田氏:外国人の支援、例えば特定技能には義務的支援というものがありますが、どこまで支援しなければならないのか?の線引が難しいんです。いくらでも手厚くすることができるのが支援ですし、逆に義務ではないからといっても、外国人本人にとっては必要な支援である場合もあります。当社は義務かどうかではなく、外国人にとって必要な支援かどうか?を現場の担当者が判断し、必要に応じてサービスを提供しています。
シロフネ編集部:その難しい管理を成功させるポイントは何でしょう。
豊田氏:お互いにホンネを引き出すこと。そして、外国人も日本人も同等であるという認識を持って接する必要があります。ときには厳しく対応しなければなりません。また、よいところも悪いところも包み隠さず伝えることです。
登録支援企業のこれから、プラスアルファの支援と地域活性化
シロフネ編集部:現在、登録支援機関は数多くあると思うのですが、今後はどのようになっていくとお考えですか?
豊田氏:特定技能の義務的支援に関していえば、それだけしかできない企業は淘汰されていくでしょうね。
特定技能1号は5年間、さらに高度な期間のない2号が追加される話がありますが、義務的支援が必要なのは1号に限られます。
義務的支援であれば、受入企業内で可能な場合がありますし、登録支援機関として義務的支援だけのビジネスモデルは拡がりがありません。もちろん義務的支援は大切ですが、任意的支援のノウハウの蓄積、そしてプラスアルファのサービス提供が重要です。
また、特定技能は制度上「転職」が可能ですが、定着につながる支援は義務的支援の項目に入ってはいません。
シロフネ編集部:マクロな視点からはいかがでしょう。
豊田氏:地域住民や行政が連携し一体となって、外国人を定着化する必要性を考えています。せっかく地方の労働力になったとしても東京のような都会に人材が流出するのは問題があるかな、と。地域活性化も含めた外国人雇用を考えていきたいですね。
シロフネ編集部:本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
株式会社ORJ
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