外国人の離職率はなぜ高い?理由と改善方法を解説

人手不足の深刻化やグローバル化の進む市場環境に対応すべく、より高い競争力を持続的に備えた企業となることを目指して外国人雇用を進めるケースが増加しています。

幅広い業種業態でますます増加していくことが見込まれる外国人労働者ですが、雇用面では、国内人材に比べて定着しにくい、離職率が高いという点が懸念点としてしばしば挙げられます。

募集活動から各種手続き、環境整備など、手間と費用をかけて採用した人材が、わずかな期間で辞めてしまうことは大きなマイナスであり、リスクと認識されるのも無理はありません。

では、実際の日本における外国人の離職率はどれほどのものなのでしょうか。また、離職の背景にはどのような理由があり、どうすれば改善できるのでしょうか。それらについて、解説していきます。

外国人の離職率

高いイメージがある外国人の離職率ですが、実際のところはどうなのかデータで検証してみましょう。

厚生労働省の令和2年雇用動向調査結果によると、日本人の離職率は14.2%でした。一方、外国人の離職率について、2021年6月に同じ厚生労働省が実施した「外国人雇用対策のあり方に関する検討会」の中間取りまとめ資料を参考に見てみると、2019年上半期は18.0%、2019年下半期で17.7%、2020年上半期は15.4%、下半期は14.0%でした。

このように全産業の合計で見ると、近年は離職率が低下しており、さほど日本人人材と変わらない状況になってきていますが、産業別での差は大きく、サービス業に従事する外国人労働者では、全体より20ポイント程度高い30%前後で推移しています。こうした業種では、やはり外国人離職率が高いと感じられやすいでしょう。

また、ヒューマングローバルタレント株式会社と株式会社エイムソウル、リフト株式会社の3社が共同で実施し、2021年11月に結果を公開した「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」を参照すると、入社後1年以内というごく早期の離職経験がある外国人労働者は28%にのぼっていました。この民間調査結果から、外国人の離職率は28%と考えると、国内人材に比べ倍近い高さであることになります。

それぞれ調査方法などが異なるため、単純比較は行えないものの、外国人人材の場合、業種によってはかなり高い離職割合となることがあること、またその離職もごく早期に発生するケースが少なくなく、日本企業の職場に定着しにくい傾向があることがデータから見えてきました。

なぜ離職する人が多いのか?

一概には顕著に離職率が高いとは言い切れないものの、サービス業での離職割合や、早期離職の発生のしやすさという点では、国内人材以上に離職ケースが多いことが分かりました。では、なぜそのような傾向にあるのでしょうか。

日本と海外の企業相違点

まず、外国人労働者は、海外の企業で働いた経験を持って訪日していたり、日本とは異なる国でキャリアをスタートさせ、そこで基礎を形成していたりするケースが一般的です。

たとえ最初に入る企業が日本の国内企業になる場合であっても、幼い頃から慣れ親しんだ社会環境における企業の常識というものは、少なからず本人の中にあるでしょう。

そのため、日本と海外の企業における相違点がギャップとなって、離職につながることがあります。日本国内では当たり前に感じることも、“世界の当然”ではありません。主な相違点から考えてみましょう。

想定されるキャリアパス

日本と海外の企業では、社員が想定するキャリアパスに大きな違いがあります。

日本企業の場合、一般に新卒一括採用で就社して教育が進められ、実績を積み上げて社内で昇進・昇給していくといったキャリアパスが描かれていきます。

一方、海外企業の場合、新卒でも転職時でも、基本的にジョブ型雇用と呼ばれるような、スキルや経験を評価し必要なポジションに充当するかたちで採用を行うケースが主流です。

そのため、個々の社員も即戦力として働き、採用時から決まっていたポジションで実績を上げてさらに市場価値を高めていく、スペシャリストとしてキャリアアップするというビジョンを自身の中に強く持っていることが一般的となるのです。

この違いは大きく、会社に対する考え方や、キャリア志向の強さに多大な影響を与えるところとなっています。

若手社員が持つ裁量権・個人か組織か

日本企業の場合、若手など入社したばかりの社員が持ち得る裁量権はごく小さく、チームで仕事を担当する、上下関係や組織の規律を保つことが重視される傾向にあります。

しばらくは個人で背負う責任はあまり重くなくて済む一方、コミュニケーションスキルを持ってチームワークに徹することが求められ、自分のやり方で仕事をこなす、考えを持ってチャレンジするといった機会はなかなか得られない特徴があります。

これに対し、海外企業の場合では、日本企業に比べ、若手社員であっても個々が持つ裁量権が比較的大きく、入社してすぐにも、独自のスキルやアイデアを活かした一人称での仕事ができることが珍しくありません。

それだけ個人の責任が重く、成果主義ではっきりと評価を下される厳しさはありますが、全力で取り組み自身の力を試すチャンスに早くから恵まれる、それを通じて自らの成長を促進させられるという良さもあります。

こうした組織ベースか個人ベースか、個々が有する裁量権がどのようになっているかという環境の違いも、日本企業と海外企業との大きな相違点のひとつです。

昇進のスピードと評価方式

人材に対する評価の方式と、それによる昇進スピードも、日本企業と海外企業ではかなり異なります。

日本企業の場合、まだ年次が上の人を下の人が抜いて昇進するということが当たり前とは受け取られにくい傾向があります。

しかし海外企業の場合では、徹底した成果主義が浸透しており、能力があって成果を上げ、会社に貢献していれば、非常に速い昇進が十分にあり得ます。

企業そのものも組み換えが前提かそうでないか

日本企業の場合、企業としてのブランド、会社という単位で独立し、確固とした世界を構築して維持し続けることをこそ良しとする傾向があり、現状の組織が持つ性格にあわせて戦略を作り上げる、企業風土の上の戦略構築を行うケースが少なくありません。

一方、海外企業の場合では戦略ベースで組織のかたちを柔軟に考えていくため、必要なリソースが社内になければ、迅速な調達を重視してすぐに社外へ求めますし、自社にある技術であっても、より優れた技術が外にあれば、すぐそちらに乗り換える、提携するといった動きをとる傾向があります。

このように、企業の枠が日本の場合のように固定的でなく、市場に対して柔軟で、戦略的・合理的に、組み換え前提で自在に変動していくという特徴があります。

この差が人とスキル、リソースに対する考え方の違い、流動性の違いを生んでいます。

主な離職理由

実際に外国人労働者から報告されている主な離職理由にはどのようなものが挙げられているのでしょうか。詳細を見ていくと、外国人特有のものと日本人にも多いものの両方が認められます。代表的な理由をご紹介します。

上司の指導に対する不満

先の「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」で、早期退職理由として最も多かったのが、この「上司のマネジメント・指導に対する不満」となっていました。

ジョブ型採用と成果主義、個人主義の環境に慣れた外国人労働者にとって、よりその領域のプロフェッショナルとして、技術や知識を伸ばしていきたい、キャリア形成をと強く望み、そのように将来を見通すのが当然という発想があります。

そこに、日本らしい将来可能性としてゼネラリスト的な育成指導をゆっくりと行っていくスタイルで上司が指導に当たったり、組織の一員として専門性はとりあえず脇に置いたジョブローテーションでマネジメントされたりといったことがなされると、ここでは自分らしく働けないと感じ、不満を募らせるもとになると考えられます。

また、日本人社員の補助的な役割や、語学面でのサポートといった、本来業務以外の役割ばかりを任されるケースもあり、そうした管理体制と企業姿勢が早期離職を招いている面もあります。

外国人に対しての差別や偏見を感じる

同調査で、入社後すぐにモチベーションが下がった理由として、「上司のマネジメントに対する不満」に次いで多いのが、この「差別・偏見」でした。

日本人側が意識していないところでも、個人的な信仰や、自身が背景に持っている文化、習慣などに対し、偏見の目で見られた、疎外されたり馬鹿にされたりしたといった思いを抱いている外国人労働者は多く存在します。

あからさまな差別はもちろん、無意識的なバイアスによる言動で個人の尊厳を傷つけることがないよう、職場環境を改善する必要があるでしょう。外国人だけでなく、日本人社員も含め、皆が働きやすく、能力を存分に発揮できる企業、ダイバーシティマネジメントが徹底された企業となることは、これからの時代に生き残れる企業となるためにも重要です。

業務内容のミスマッチで能力を発揮できない

リフト株式会社が実施した、外国人求職者対象の早期退職(離職)要因アンケートによると、求人情報や説明時と実際の業務内容が違うため、能力やスキルを活かせなかった、キャリアが描けなくなったという理由が2位と、上位にランクインしていました。先述の共同調査でも、早期離職の原因における2位が「業務内容のミスマッチ」となっており、これが離職を決める要因になったケースは非常に多いと推察されます。

とくに早期から積極的にスキル勝負で仕事をしたい、即戦力で働きキャリアを磨く、実績を上げるという高い意識で臨んでくることが多い外国人労働者にとって、業務内容のミスマッチは致命的であり、当然離職を考える非常に大きな理由にもなるでしょう。

職場での人間関係

職場での人間関係は、国内人材でも離職の主要な理由として挙がることが多いものですが、外国人労働者の場合も同様です。「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」の早期離職の原因では3位タイの31%、リフトのアンケートでは1位となっていました。

日本人同士で生ずる人間関係の問題と似たケースに加え、日本独自といえるコミュニティの慣習、スキルとは無関係のチーム内序列・グループ形成など、外国人にとっては理解しがたく馴染めない人間関係の結び方、コミュニケーション習慣は随所に認められます。

こうした環境下で働くことを煩わしく感じたり、不満で耐えられなくなったりして、離職に至るケースは少なくありません。

働き方や待遇への不満

日本の企業では、まだまだ当たり前であるところも多い時間外労働の長さや発生頻度の高さ、有給休暇取得・消化のしづらさなどは、外国人労働者にとって、馴染みがあまりないことであるため、非常に悪い労働条件の職場だと感じられてしまうことがあります。

また、自身の実績に対して思うように給与が伸びなかったり、昇進できなかったりすると、自らが正当に評価されていないと不満に思う傾向も、国内人材より強いようです。

入社後にギャップが生じる原因

キャリアの考え方に根本的な違いが認められる外国人労働者では、そもそも職場を変えることに大きな抵抗がなく、自身の成長プランにおける一通過点と考える人が多いため、長期間、同一の職場とポジションにとどまるケースの方が稀だという事情はあります。

しかし、ごく早期に離職してしまうのは、やはり何らかの不満やこんなはずではなかったと思う気持ちが生じているからだと考えられます。

そして、そうした思いや不満というのは、入社を決めた際に本人が思い描いていた状況と、いざ働き始めて直面する現実にギャップがあるからこそ生まれるものです。ではなぜ入社後にギャップが生じるのでしょうか。

募集・面接時の説明不足

良い人材を獲得したいと思うあまり、求人募集をかけている時や採用面接時には、自社の優れたポイントや、実際に社員となって働くことで得られるメリットの部分ばかりを強調し、考えられるマイナス面をあまり伝えないことがしばしばあります。

国内人材であれば、ぼかして伝えられたデメリットに関して、およそこういうことがあり得るのだろうと推量で理解することができる場合が多くても、外国人求職者の場合そうはいきません。

日本語の曖昧なニュアンスであるために理解できなかったり、ビジネスマナーや文化・社会背景の違いから伝えられなくても仕方がない、およそこのようなものなのだろうと考えることは到底無理なことであったりする可能性が大いにあります。

その結果、入社前には過大な期待を抱いてしまい、入社後、そのイメージとの落差に失望する、ひどいギャップがあると感じるといったことが生じてしまうのです。

また、会社からの情報提供が法律用語やビジネス語など、日常日本語と異なるものでの説明にとどまる場合、N1・N2といった高いレベルの日本語運用能力を持つ人であっても、完全には理解できないことがあります。そうして十分な理解にたどり着けぬまま入社し、ギャップを感じる場合もあります。

採用目的が曖昧

ポテンシャル採用に慣れている日本企業の場合、外国人を雇用するケースにおいても、その時点で求める能力や人物像が明確に絞り込まれていないことがあります。

何を目的に雇用するのかが十分に明確化できていないと、スキルやキャリア意識の高い外国人労働者は、自分が採用されたのに、評価してくれたはずの会社から何を求められているのか理解できず、ここは自分のいるべきところではないと考えるようになってしまいがちです。

その結果、働くモチベーションも低下していく、離職を考えるという流れを生んでしまいます。

サポート体制など受け入れ環境の整備不足

外国人労働者にとって日本の企業で働く場合、敬語やビジネス用語、独特なマナー、業界の専門用語など、新たに学び習得しなければならないことも多く、ただ新たな職場環境への適応を図るケース以上に困難を抱え込みやすくなります。

日常生活においても慣れない習慣や文化に囲まれて暮らすこととなり、そこでの不安やストレスも蓄積されやすいでしょう。

そうした状況下で、そもそも受け入れ側の環境が整っておらず、サポート体制などが不十分であれば、不満やギャップを感じる要因になり得ます。

先述の「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」で挙がった早期離職の原因でも、「業務を遂行するうえで必要なトレーニングやサポートの不足」や「宗教・文化・価値観への違いへの配慮不足」、「語学面でのサポートの不足」、「外国人が相談できる窓口、生活サポートの不足」といった項目が見られており、入社前に想定していただけの支援が受けられなかったと感じている人が少なくないことが明らかになりました。

こうした周囲の配慮不足、入社後のフォローやサポート環境の不足がある場合、それが入社前イメージとのギャップを引き起こす原因になるでしょう。

外国人の離職率を改善するには

外国人の高い離職率は、そのような施策を施せば低下させることができるのでしょうか。以下、職場定着を促進させるポイントを解説します。

採用・選考プロセスの見直し

まず、最適なマッチングを実現し、企業にとっても働く外国人にとってもより良い結果を導けるよう、採用段階から見直しを進めましょう。説明は非ネイティブでも理解しやすい平易な日本語で、時には適宜英語での補足を行うなどし、曖昧な理解にとどまる点、不明点を残さないようにします。

自社のプラス面・マイナス面をどちらもきちんと伝えるとともに、候補者である外国人求職者の本音をしっかり引き出しましょう。会社に何を求め、どう働こうとしているのか、会社側はどのような働きを期待し、どんな環境を用意できるのか、互いの認識のズレがないよう、しっかり詰めていくことが大切です。

評価基準とキャリアパスの明確な提示

外国人労働者へのキャリア形成支援は、日本社会全体で早急に取り組むべき課題ですが、企業としてもできる努力を進めていく必要があります。外国人・日本人を問わず、社員のキャリアパスを職務ごとで明確に示していくことが求められるでしょう。

さらに、外国人労働者は、自身の実績が正当に評価されることを強く望むため、国内人材との待遇差をつけることなく、これまで以上に明確な評価基準の設定や、スキルに基づく評価と報酬、昇級制度の導入・運用へ移行していくことが効果的な施策となります。

定期的かつ綿密なサポートとフォローアップ

当然のことですが、必要なサポート体制が不足していれば、離職率は高まってしまいます。入社時にまとめて行って終わりといったスタイルではなく、必ず定期的に実施していくこともポイントです。

外国人労働者がまずぶつかる壁としては、やはり周囲とのコミュニケーションの取り方が挙げられるでしょう。言葉の問題はもちろん、日本特有の文化や慣習、マナーといったものは、外国人労働者にとって異質で理解しがたいものである場合も少なくありません。定期的かつ綿密なフォローアップで、互いの理解を深めていくことが重要です。

企業内ダイバーシティの推進

人材の定着を図るには、企業内や職場内のダイバーシティを推進することも大切です。

受け入れ側となる既存社員らにも教育を進め、さまざまな背景や価値観を持って生きる人々への理解を深めることが欠かせません。

ダイバーシティマネジメントを積極的に行っていくことは、社内をより誰にとっても働きやすく、それぞれが持てる力を最大限に発揮できる場となるほか、対外的な企業イメージの向上にもなるものです。

外国人雇用をきっかけとした環境整備・環境改革で、企業価値と生産性の両方を高めていけるダイバーシティの推進を図りましょう。

まとめ

今回は外国人労働者について懸念される離職率の高さとその理由、改善策などを解説しました。グローバル人材が安心して働け、力を発揮したくなるような魅力のある職場環境とすることは、その企業の、ひいては日本経済全体の、発展を支えていくうえで非常に重要なことです。

現状の課題を十分に洗い出してそれらを改善する施策を検討し、自社に合うかたちで積極的に実施していってみてください。その一歩が多様な人材を活かせる職場を作り、人材を宝として成長を続ける企業を作るはずです。

(画像はPixabayより)

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