
近年、国内人材では不足する労働力の補填と、必要なスキルを有する人材をより確実に獲得するための手段として、外国人エンジニアの採用に関心が集まっています。これまで外国人採用をしてこなかったが、これからは積極的に採用していく方針になったという企業も多く見られるようになりました。
外国人エンジニアの採用には多くのメリットがある一方で、国内人材とは異なる生活習慣や価値観、言葉の問題などから、採用におけるミスマッチが発生しやすいというデメリットも。
このデメリットを最小化するためにとくに重要となるのが、面接のプロセスです。しかし、限られた時間で相手の本質を見抜き、適正に評価したり、相互理解に至るコミュニケーション地盤を形成したりすることは容易ではありません。
外国人エンジニアの面接なんてどうすれば良いのか見当がつかない、初めてでいきなり任されて困っているといった面接官の方もいるでしょう。そこで今回は、失敗しない面接のため、まず押さえておきたいポイントを解説します。ぜひ参考にしてみてください。
この記事の目次
チェックすべきポイントと質問集
語学力
企業方針や業界特性、ポスト特性などにより面接で重視するポイントはさまざまですが、外国人エンジニアの面接では、やはりまず現時点での日本語レベルをチェックしておかねばなりません。リアルなコミュニケーションにおける日本語運用能力は、提出書類から測ることができないものであり、実際の面接を通じて初めて確認可能となる重要なものです。
JLPTの認定レベルなど参考となる資格指標はありますが、対人でのスピーキングテストを設けていないものも多く、実際の業務コミュニケーション現場で発揮されると見込まれる語学力が、その資格における一般的目安とはかなり乖離している場合もあります。質問内容を正しく理解できるか、どのような言葉遣いで回答しているか、直接的質問はもちろん、面接全体でのやりとりに注目し、確認するよう努めましょう。
もちろん、現時点で日本語を流暢に使いこなし、完璧なコミュニケーションが成立することを求めるべきとは限りません。向上心と適応能力の高い外国人人材は、日々の業務の中で生の日本語を浴びていくことにより、総合的な日本語運用能力をぐんぐん伸ばしていく可能性が十分にあります。やさしい日本語表現にかみ砕いたり、ときには英語で互いの理解を補足し合ったり、自社で無理なく対応できるレベルと符合するかどうかを基準に、チェックすると良いでしょう。
直接的な質問の例としては下記のようなものが有効です。
・日本語を学ぼうと思ったきっかけは何ですか。
・これまで業務で日本語を使ってきた経験はありますか。あればどんなシーンで使いましたか。
・日本語のリーディング・ライティング・リスニング・スピーキングで得意なものはどれですか。また最も苦手なものはどれですか。
コミュニケーション能力
実際に業務を開始すると、コミュニケーション能力は重要なスキルのひとつとなります。エンジニアという職種でも、その企業の方針や就くポジションにもよりますが、およそひとりで仕事をするわけではないでしょう。そのため、基本的なコミュニケーション能力を発揮して職場に馴染み、本来のパフォーマンスで働けるかどうかチェックしておく必要があります。
日本語運用能力とはまた少し異なり、円滑な関係性を築くのが上手な人や心配りができる人、気持ちよくやりとりできる基礎がある人など、そうしたコミュニケーション能力は人によってかなり差があるものです。
自社とのマッチングにも関係するので、そうしたポイントを中心に評価しましょう。コミュニケーションスキルに長けた人材であれば、職場定着率を高めて離職リスクを低減できる、周囲の社員にも良い影響をもたらせるといったことが期待できます。
面接における振る舞いや臨む態度、受け答え全般から分かるほか、質問では次のようなものが考えられます。
・自己PRをどうぞ。
・上司や先輩、同僚(友人)はあなたをどんな人だと評価していましたか。
・共に働く上で、どんなタイプの人を苦手と感じますか。
経歴
書類で基本情報は提出されていますが、あらためて本人の経歴や来日理由などを質問し、確認しましょう。情報に間違いはないかや人柄や過去の素行はどうかなど、採用後のトラブルを避けるためにも丁寧にチェックします。
外国人エンジニアの場合、在留資格に問題はないか、資格外の活動や犯罪行為を行っていないか、最低限の基本事項も確認しておく必要があります。このほか、経歴に関する内容を少し深掘りすることで、これまでどのような生き方をしてきた人なのか、何を大事に考える人なのかといった人となりや思考傾向もみることができるでしょう。
経歴関連の質問では、次のようなものがあります。
・来日することになったきっかけは何ですか。
・これまでにどのような仕事(勉強)をしてきましたか。
・前職に就いた理由は、また転職した理由は何ですか。
・日本企業で働くことについて、どのようなイメージをもっていますか。
スキル
エンジニアとして採用する以上、最も重視して考えたいのは、本人が持っている専門スキルでしょう。これまでの職務経歴や担当したプロジェクト、自身で作成したシステム、コンテンツといったものをすでに提出してもらっている場合、それらからおよその検討をつけているかと思われますが、より自社のポストに合った働きをしてくれるか、業務で求めるスキルレベルに十分達しているか、対面の面接で確認しましょう。
実際に簡単なプログラミングを行ってもらうなど、実技試験と組み合わせて行うことも有効です。これらは国内人材のエンジニアを雇う場合と同様に考えて評価していけば問題ありません。
ただし外国人エンジニアの場合、とくに日本の現場で働くのが初めてというケースでは、業界の専門用語が日本においてどう訳されているかを知らない可能性があります。それは入社後に業務を行いながら覚え、慣れていけば十分に対応可能な場合が一般的です。
よって、専門用語での指示が通じず、回答や実技が行えないからスキルがないとすぐに判断してしまうのではなく、回答時に日本語が分からない場合には英語も可能とする、言語に依存しない図なども用いながら紙に書いて示すといった手法を、面接時のやりとりにおいて使えるように準備しておきましょう。これにより、本来有しているスキルや経験のレベルを的確にチェックしやすくなります。
技術的スキル以外のヒューマンスキルについても、国内人材の選考時と同様に考え、自社の評価基準でチェックする方針で問題ありません。スキル関連の質問では、以下のようなものが考えられるでしょう。
・最も得意とする言語とその到達レベルを、どの程度と自身で評価していますか。
・担当したプロジェクトの規模、その際に担ったポジションや具体的業務を教えてください。
・プロジェクトで失敗した経験はありますか、その際にはどうリカバリーしましたか。
・弊社があなたを採用するとどのようなメリットがありますか。
・これまでに日本人エンジニアと共に働いた経験はありますか、何か困ったことはありましたか。
キャリアプラン
もともとエンジニア職の人材は、それぞれ自身のキャリアプランをビジョンとして描き、それを実現していくために転職もさほど抵抗なく重ねていく、自らの市場価値を高め、なりたいエンジニア像となるためのステップとして現在の仕事を考える傾向が、ほかの職種以上に浸透しているという特徴があります。
さらに外国人エンジニアの場合、日本人エンジニアよりも、自らのキャリアを貪欲に形成していく意識が強い傾向が認められます。そのため、キャリアプランに有益性を見出せない、モチベーションが保てないとなれば、無理に仕事を続けることはなく、すぐに次を考えるという考え方を持っているケースが多いのです。これは本人の特性というより、むしろグローバルスタンダードな考え方といってもよいので雇う側もそれを踏まえて評価することが適切です。
とくにわざわざ来日して働こうという外国人エンジニアには、それぞれ明確なプランや志望背景となるストーリーが確固として存在すると考えておくべきです。よって、このキャリアプランへの考え方については深くヒアリングしておくことが大切です。
質問としては、シンプルに志望動機などが参考になりますが、ほかには下記のようなものが有効でしょう。
・どんなエンジニアになることが理想ですか。
・この職場で成し遂げたいこと、挑戦したいことを教えてください。
・日本で就職した後は、どういったキャリアを見据えていますか。
・最近勉強している技術、興味のある領域は何ですか。
異文化への適応能力
職場という環境の変化は、日本人にとっても大きなものであり、転職先でこれまでとは全く異なる社風や文化に戸惑うということがしばしばあります。当たり前と思っていたことが通じず、カルチャーショックを受ける場合もあるでしょう。反対に、これまで上手くいかなかったことが嘘のように自然にできるようになる、快適に働けるようになる場合もあります。
このように職場環境を変えることは、一種の異文化への飛び込みとなりますが、これまで日本以外の職場で働いてきた外国人人材であれば、さらにその差は大きく、まさに全くの異文化世界での挑戦になります。本人も覚悟はしているはずですが、思わぬポイントで環境に馴染めず、十分なパフォーマンスを発揮できなくなって辞めてしまう、文化の違いに悩み苦しむといったことが起こりやすいのは否めません。
自社の経営方針や理念、社風、カルチャーバリューなどを分かりやすく説明し、理解を深めてもらうことが大切です。そしてそうした理解のもと、違いを乗り越えられる力や柔軟に対応できる力、ストレス耐性などを面接でチェックしておきましょう。
順応・適応力の確認では、次のような質問がおすすめです。
・仕事で生じた問題に対し、自身がとってきた対処策を教えてください。
・どういった職場環境が、自身の活躍できると考えますか。
・チームで働く際に大切にしていることは何ですか。
・来日して困ったことはありましたか。それをどう乗り越えましたか。
・日本のビジネスマナーについて知っていること、それに対する考えを教えてください。
外国人との面接での注意点
近年の面接では、面接官が特段の意識なく行ってしまった質問が差別に当たる、人権侵害やハラスメントになるといった問題がしばしばクローズアップされ、コンプライアンス違反として企業倫理が厳しく問われるようになってきています。
面接では、限られた時間の中で初対面である人の価値観や人柄を、深く本質的な部分まで引き出す必要があります。こうした倫理面の配慮と踏み込んだ質問も行わねばならない必要性から、質問内容に悩むことが増えたと感じる面接官の方も多いのではないでしょうか。
外国人人材への面接では、さらに国内人材とは異なった配慮、注意点も加わります。適正に外国人エンジニアとしての人材評価を行うにあたり、これだけは気をつけておきたいポイントについてまとめました。
日本語レベルに合わせた言葉の選定
エンジニア職種はあくまで技術職となるため、基本的に営業や接客のような職種ほど、高いコミュニケーション能力や日本語運用能力、ビジネスマナーが求められることはありません。およそ社内コミュニケーションのみに限られるといったポストであれば、なおさらです。
そのようなケースではとくに、社内に不足するスキルを重視して評価・採用すべきなので、応募者の日本語レベルに合わせながら面接を進めるようにしましょう。そうすることで現場業務レベルでのミスマッチを少なく抑えられ、かつ貴重なスキル人材を効率的に獲得できるようになります。
どうしても業務ですぐに必要となる専門用語なども、入社前に覚えてもらうよう研修プログラムを組んだり、教育コンテンツでの学びを指示したりすれば、十分に対応可能です。流暢な日本語にこだわらず、面接に臨んでいる姿勢やビジョン、考え方、環境適応力、意欲などの面で人材としてどうか、自社と相性良くプラスの働きをしてくれそうか、今後の伸びしろを含めて評価することを心がけましょう。
業務範囲や残業時間、待遇など詳細条件についてのやりとりでも、分かりやすくシンプルな日本語表現で説明し、相互に確認していくことが大切です。質問への返答も曖昧にせず、理解できるか確認しながら、明確に回答するようにしましょう。これにより、採用後に発生するトラブルやミスマッチを未然に防止しやすくなります。
これはNG!してはいけないタブーな質問
たとえ面接官は全く悪気のないものであったとしても、以下のような質問を行ってはいけません。内容によっては訴訟問題にまで進展してしまう場合もあります。
宗教に関すること
日本では法律により、宗教や思想・信仰の自由が保障されています。グローバルスタンダードでも、宗教はデリケートな個人の問題であり、本人の自由、プライバシーに関わることなので、面接の質問項目として挙げることは不適切です。
直接、信仰する宗教が何かを尋ねるのはもちろん、「宗教上、働けない曜日や時間がありますか?」といった関連する質問もタブーと認識しておいてください。
ハラスメントや差別につながる内容
国籍による差別はもちろん許されません。労働者は性別や国籍、年齢、学歴を問わず、本人の能力と適性によって平等に評価されなければならないことが、最も基本的なルールとなっています。どのような環境下、条件下であれ、海外一般や応募者の出身国・地域を蔑むような質問や発言、国家間の問題が絡んでくるような国際問題にかかる質問・言動は絶対に行わないようにしましょう。
人種に対するステレオタイプな理解から、「~人だからこうだろう」と決めつけて発言したり、その点から執拗に質問を繰り返したりすれば、受けた側は人種差別だと理解します。少しでも差別と受け取れるような発言は慎みましょう。
容姿に関わる発言や、応募者の人格を否定するような批判・侮辱、威圧的な態度もNGです。いずれもハラスメントにつながる恐れが強く、後々大きな問題になりかねません。多様性を理解し、相手の尊厳を守る細心の注意を払った上で、面接マニュアルの作成や質問、評価を行うようにしてください。
まとめ
外国人エンジニアの採用にかかる面接において、失敗しないためのポイントや実施時の注意点などをご紹介しました。
何から着手すれば良いか分からない、どう評価すれば良いのか不安だという人事担当や面接官の方もいるでしょう。特別な準備が必要なのではないかと悩み、構えてしまうばかりというケースもあるかもしれません。
言葉や文化的背景への配慮は必要ですが、基本は常に公平な態度で臨み、自社で活躍・貢献してくれる人材かどうか、相性はどうかを見ることが何より重要です。ここでご紹介した内容も参考に、ぜひ自社に適した最善の面接実施を目指してみてください。
しかし、対象が外国人エンジニアであっても、採用活動は採用活動です。言葉や文化的背景への配慮は必要ですが、基本は常に公平な態度で臨み、自社で活躍・貢献してくれる人材かどうか、相性はどうかを見ることが何より重要です。ここでご紹介した内容も参考に、ぜひ自社に適した最善の面接実施を目指してみてください。