2019年4月1日の法改正によって、残業時間の上限が法律で定められることになりました。
実は、長時間残業が法律によって規制されたのはこれが初めてのことです。
今回は、なぜ残業に関する法改正が必要になったのか、またその規制の内容について詳しく解説します。
正しい知識を身につけて、健全な労働環境の整備に取り組みましょう。
この記事の目次
残業についての法改正の背景
まずは、これまで法律で規制されることがなかった長時間残業がなぜ規制されることになったのか、その背景について解説します。
残業の定義とは
そもそも残業の定義とは、「労働基準法で決められた時間(法定労働時間)を超えた労働」のことです。
「残業」という字面だと、終業後に残って行う仕事と解釈してしまいそうですが、始業前に早く出勤したり、休日出勤するのも時間外労働なので、残業と同じ扱いです。
法定労働時間は最大1日8時間・週40時間と定められています。
ちなみに会社によっては、それより短い6〜7時間ほどを所定労働時間としていることもあります。
その場合、所定労働時間以上・法定労働時間内の残業は「法定内残業」、法定労働時間を超える残業は「法定外残業」と区別します。
法定内残業には賃金の割増は必須ではありませんが、法定外残業の場合は25%の割増賃金が必要です。
また、22:00〜5:00の間の労働は「深夜労働」となるので、この時間帯に残業をした場合はさらに25%の割増(合計で礎賃金の150%)となります。
法改正が必要とされた理由
残業に関する法改正が必要となった背景には、長時間労働が原因の「過労死」「ブラック企業」などの社会問題があります。
少子化の進行により労働人口が減り、少ない労働力を酷使する企業は少なくありません。
そういった企業を規制し、労働者が安全に働く環境を整えるために、「働き方改革」の一環として残業時間の規制が導入されたのです。
2019年の法改正では、残業に関する規制の他にも労働者の心身を守るための変更が多数導入されています。
残業についての法改正で何が変わる?
それでは、残業に関する法改正によって、具体的に何が変わるのかを解説していきます。
残業時間の上限規制(罰則付き)
2019年の法改正で、残業時間の上限が定められました。
残業時間の上限には、全部で3つのルールがあります。
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- 2〜6ヶ月間の複数月の平均が80時間
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- 1ヶ月100時間
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- 年間720時間
従業員に、これらいずれかを超える残業をさせた企業には、後の項目で解説する罰則が課せられます。
以前は「36(さぶろく)協定」を結べば「月45時間・年間360時間」までの法定外残業が許可され、「特別条項付き36協定」を結べば残業時間の上限はありませんでした。
しかし改正後は、「特別条項付き36協定」を結んだとしても上記の規制が適用されます。
年次有給休暇取得の義務化
同じ法改正で、残業の他に有給休暇の取得についても変更がありました。
改正前は、1年間に1日も有給休暇を取らない従業員がいても問題ありませんでした。
しかし改正後は、年間10日以上の有給休暇が付与される従業員に「1年以内に5日以上」の有給休暇を取得させることが、会社側に義務付けられます。
有休取得の希望が5日未満の従業員には、会社側が時季指定をして最低5日は休ませる必要があります。
また、時季指定については本人の希望を聞き、尊重するよう努めなければいけません。
高度プロフェッショナル制度の創設
高度プロフェッショナル制度とは、年収1,075万円以上の一部の専門職は、労働時間規制や時間外労働の割増賃金支払い規定の対象外とするという制度です。
ただし、高度プロフェッショナル制度の対象者にも、無理な長時間労働を課すわけには行きません。
以下のいずれかの「健康確保措置」を選択して、健全な労働環境を保証する必要があります。
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- 働く時間の上限設定
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- 終業から翌始業まで一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」
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- 連続2週間の休日取得
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- 残業80時間以上での健康診断
フレックスタイム制の精算期間延長
フレックスタイム制とは、所定労働時間の枠内で、従業員自身が始業・終業時刻や1日の労働時間を自由に決められる制度です。
以前の法律では、所定労働時間の精算期間は1ヶ月とされていましたが、法改正によって3ヶ月まで延長できるようになりました。
これにより、繁忙期と閑散期の差が大きい会社でも、労働時間の調整が容易になります。
ただし、繁忙期に労働時間が集中すると健康を害するリスクがあるため、「週の労働時間は50時間まで」という制限があります。
残業上限規制の例外となる職種
大企業に対する時間外労働の上限規制は2019年4月から適用されていますが、中小企業に対しては2020年4月からの適用となり、1年間適用を遅らせる猶予措置が取られていました。
そして、以下の事業については2024年3月31日まで上限規制が猶予され、業種によってはその後も特別な扱いを受けることが想定されています。
- 建設業
- 医師
- 自動車運転の業務
また、新技術、新商品の研究開発業務には上限規制が適用されません。
ただし、医師の面接指導や代替休暇の付与などの健康確保措置を設ける必要があり、それらの提供が行われない場合、使用者は罰則を受けることになります。
残業削減のために企業がすべきこと
それでは、残業削減をするためには、企業にどんな努力ができるのかを解説していきます。
業務の効率化を目指す
業務の効率化によって、仕事にかかる時間が減れば、当然ながら残業時間は減ります。
慣例化している無駄な工程を省いたり、作業時間を短縮できる機械やシステムを導入したりと、どこかに見直せるポイントがあるはずです。
仕組みの変更によって初期コストはかかっても、長期的に残業を削減できれば、結果的にコストカットに繋がる可能性もあります。
勤怠管理・仕事の割り振りの見直し
残業を削減するためには、まず社員の現在の残業量・適正仕事量を把握する必要があります。
正確な勤怠管理システムを導入し、他の社員に比べて残業が多すぎる社員がいないか、また、いるならなぜ残業しがちになっているのかを分析しましょう。
周りが気がつかないうちに、特定の社員に負担が集中しているかもしれません。
社内の仕事の総量が多すぎる場合には、アウトソーシングを考えるのも一つの方法です。
就業規則・労働契約の見直し
会社側の制度を変えることで、残業時間を削減できることもあります。
ノー残業デーを設ける施策は定番ですが、一定の時間以降は一斉消灯したり、残業申請をチケット制にしたりといったユニークな取り組みをする企業も話題となっています。
柔軟な働き方の導入
フレックスタイム制を導入すれば、忙しい日に長時間労働をすることがあっても、仕事が少ない日に社員が自主的に休むことができます。
また、テレワークや自由出勤を取り入れると、通勤時間が減るぶん社員の負担を減らすことが可能です。
残業時間の削減という法的な規制以外でも、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が社員の心身の健康に繋がるのです。
残業時間超過で受ける罰則とは
残業時間超過で受ける罰則は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」です。
また、罰則を受けた場合、程度によっては厚生労働省によって企業名を公表されることがあります。
そうなると、世間的に「ブラック企業」として認識されて業績にも影響を及ぼす可能性があるため、法定の罰金額以上の損害となるでしょう。
まとめ
2019年4月に改正された残業にまつわる法律は、労働者の心身の健康を守るためのものです。
違反した企業には罰則があるほか、ブラック企業として世間に認知されてしまうリスクも。
法律を遵守して労働者を守るために、業務の効率化や残業削減に繋がる施策で対策をしていく必要があります。