「失業率」という言葉はよく目にする機会がありますが、その正式名称は「完全失業率」ということをご存知ですか?
完全失業率は、日本の景気動向を把握するために重要な指標のひとつ。
就職・転職や、企業の経営戦略を考えるにあたっても参考になります。
今回は、完全失業率の定義や、2021年現在の完全失業率の動向についてお伝えしていきます。
この記事の目次
完全失業率とは
まずは、完全失業率の定義と計算方法についてお伝えします。
完全失業率の定義
完全失業率とは、「労働力人口(15歳以上で働く意欲のある人)」に占める、「完全失業者(職がなく、求職活動をしている人)」の割合のこと。
似た言葉に「自然失業率」がありますが、こちらは「経済が長期的な均衡状態にあっても必ず存在する失業者の割合」を指します。
自然失業率には、働きたくても仕事がない完全失業者だけではなく、「働く気持ち・必要がない」「自分が望む条件の職がない」「失業保険の受給中は職探しをしない」などの理由で自発的に仕事に就いていない人も含まれます。
そのため、完全失業率の方が、より景気の実態を表していると言えます。
完全失業率の求め方
完全失業率は、以下のように求めます。
計算方法
完全失業率=完全失業者数÷労働力人口×100
「労働力人口」とは、15歳以上の人口から「非労働力人口(学生・家事労働者・高齢者など)」を引いた数。
一方、「完全失業者」とは、次の3つの条件を全て満たす人のことを指します。
1. 仕事がなくて調査週間中に少しも仕事をしなかった(就業者ではない。)。
2. 仕事があればすぐ就くことができる。
3. 調査週間中に,仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む。)。
出典:総務省労働局「労働力調査 用語の解説」
実際に全ての人口を把握するのは現実的ではないですが、総務省統計局が約4万世帯を抽出して調査し、全国的な割合を算出しています。
日本の完全失業率の現状と推移
ここからは、日本の完全失業率の現状や推移、カテゴリ別の完全失業率についてお伝えします。
完全失業率の推移
2021年3月に発表された総務省統計局の調査では、過去3年分の完全失業率(年平均)は以下の通り。
2018年:2.4%
2019年:2.4%
2020年:2.8%
2021年はまだ年が終了していないため年平均は出ていませんが、2021年1月・2月は2.9%と、2020年の平均よりも高くなっています。
2020年に完全失業率が0.4%も急増し、2021年も増加が見込まれる背景には、新型コロナウイルスの影響による経済の落ち込みがあります。
最新!完全失業率の調査結果
ここでは、2021年最新版の男女別・年齢別・地域別の完全失業率を見ていきましょう。
参照:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)2月分」
男女別完全失業率
2021年2月の男女別完全失業率は、以下のようになっています。
男性:3.1%
女性:2.8%
それぞれの推移を見ると、男性は前月より0.1%低下、女性は前月より0.2%の上昇となっています。
年齢別完全失業率
2021年2月の年齢別完全失業率は、以下のようになっています。
15〜24歳:4.9%
25〜34歳:4.0%
35〜44歳:2.5%
45〜54歳:2.8%
55〜64歳:2.6%
65歳以上:1.8%
全体的に、若い世代ほど完全失業率が高く、年齢が上がると低くなる傾向があります。
これは、年齢が若いと転職が容易なので、自分から仕事を辞めて職探しをしている人口が多いためと考えられます。
地域別完全失業率
地域別完全失業率の2020年10月〜12月平均と前年同期比は、以下のようになっています。
参照:総務省統計局「労働力調査( 基本集計)2020年(令和2年)10~12月期平均」
北海道:3.3%(+0.9%)
東北:2.9%(+0.2%)
北関東・甲信: 2.5%(+0.5%)
南関東:3.1%(+1.0%)
北 陸:2.6%(+0.6%)
東 海:2.5%(+0.6%)
近畿:3.1%(+0.8%)
中国:3.1%(+0.8%)
四国:2.7%(+0.7%)
九州:3.0%(+0.5%)
沖縄:3.6%(+0.9%)
全体的に、新型コロナウイルスで打撃を受けた観光業が盛んな地域は完全失業率が高め、漁業・農業・林業といった第一次産業が盛んな地域は低めという傾向があります。
また、全ての地域で完全失業率が上昇していますが、上昇幅にも同じ傾向があると言えます。
完全失業率が上がる原因と影響
ここでは、完全失業率が経済の動向とどのような関係があるのかを解説します。
完全失業率が上がる原因
完全失業率が上がる原因には、主に以下の3つが挙げられます。
- 景気悪化で需要不足
- 労働人口が減少している
- ミスマッチの拡大
それぞれについて、下の項目で詳しく解説していきます。
景気悪化で需要不足
景気が悪化すると、企業の収益が下がり、それに伴って雇用の維持が難しくなります。
その影響で雇用整理が行われて失業者が増えることが、完全失業率が上昇する直接的な原因です。
また、再就職をするにも需要が少ないため、景気の悪化によって完全失業率が上昇すると失業が長期化しやすくなります。
労働人口が減少している
完全失業率は、労働人口を母数として計算します。
労働人口が減ることで、失業者の数が変わらなくても割合が高くなるのです。
日本は少子高齢化の影響で、定年退職する高齢者よりも新たに労働人口にカウントされる若年層が少ないため、完全失業率が上昇していく傾向にあります。
ミスマッチの拡大
業界の需要と、人材の希望やスキルのミスマッチにより余剰の労働力が発生することも、完全失業率が上昇する原因の一つです。
例えば介護業界は慢性的な人手不足と言われていますが、介護の仕事をするためには専門的な知識や資格が必要なため、他の業界の余剰の人員がすぐに働くことはできません。
このように、人気の業界が偏ったり、特定の業界で余剰の人員が出ることで、あるところでは人手不足、あるところでは失業者多数という状況が起こるのです。
日本では2008年のリーマンショック以降、この要因で長期失業者が増えているといわれています。
有効求人倍率との関係
有効求人倍率とは、求職者1人に対し、何件の求人があるかを示す数値です。
ハローワークのみでの調査なので、完全に世間全体の状況を反映しているとは言えませんが、経済の動向を測る重要な基準となります。
完全失業率と有効求人倍率の関係を見ると、有効求人倍率が高い時には完全失業率は低くなると言われています。
有効求人倍率が高いということは、求職者が仕事を選びやすく、就職しやすいということです。
完全失業率は、働く意思があり、仕事さえあればすぐに働けるにも関わらず失業している人の割合を示すので、当然ながら働き口が豊富にあれば数値は下がります。
ただし、完全失業率は景気の動きより遅れて結果に現れる「遅行指数」ですが、有効求人倍率は景気動向におおむね一致して推移する「一致係数」なので、この2つの推移には時間差が生じます。
完全失業率がもたらす影響
一般的に、完全失業率が高い状態は、景気や雇用情勢が低迷している状態を表します。
また、完全失業率が高くなることで先行きに不安を感じ、消費者が個人消費を抑えることでさらに景気が悪化するという負のスパイラルも。
景気が悪いと、犯罪や自殺の増加にも影響があると言われていて、完全失業率の上昇は様々なマイナス影響と繋がっていると言えます。
まとめ
完全失業率は、総務省統計局が毎月調査している指標。
新型コロナウイルスや少子高齢化の影響で、日本の完全失業率は近年上昇しています。
完全失業率の動向は景気の動向とも連携しているので、自分の就職・転職や、企業の経営戦略を考えるにあたっても重要な指標と言えます。