外国人の給与計算方法・源泉所得税ガイド

日本にいる外国人労働者の数は現在約127万人で、外国人在留者全体の約4~5割を占めています。政府の後押しもあり、この数は今後も増加傾向にあると見られています。
そんな外国人労働者に多いのが、給与関連のトラブルです。外国人を雇用する際は、日本の給与・税金システムをきちんと説明し同意を得ておかなければ、場合によっては裁判沙汰になったり摘発されたりしてしまう可能性があります。

そんなトラブルを未然に防ぐためにも、当記事では外国人労働者の給与計算方法・源泉所得税などの税金などの手続きについてご紹介いたします。外国人労働者の採用を考えている企業にとっては特に重要なことなので、ぜひご覧ください。

外国人の給与を計算する方法

日本の給与システムでは、労働条件通知書などにより決められた「総支給額」から、所得税などの税金や健康保険料や厚生年金保険料を引いた手取り額が支払われます。
しかし、外国人労働者の中にはそういった事柄を知らない人も多く、「事前に聞いていた給与の額よりも少ない」とトラブルになる可能性があります。

また、雇用方法や種類によって別途手続きが必要な場合もあり、それに応じて総支給額も変わることもあるため、給与の計算方法は複雑です。

外国人社員との給与支払いまでの流れ

まずは、外国人労働者への給与支払いまでの流れを確認しましょう。日本人とは違うこともあるため、詳しく解説いたします。

給与への合意

日本では、求人情報などの給与の欄には総支給額が書かれていることがほとんどです。日本人はその総支給額はそのまま手元に入らないことを知っているため、その旨をわざわざ説明する企業もありません。
しかし、外国人労働者は日本の税金・社会保障制度をよく知らない場合が多く、その結果先述したようなトラブルになってしまうこともあります。外国人労働者を雇用する際は、総支給額と手取り額との違いをしっかり説明しておくことが必要です。

グロス(Gross)とネット(Net)の理解

グロスとネットは、日本ではあまり聞くことのない言葉かもしれません。「グロス」とは総支給額、「ネット」は手取り額を意味しています。
外国人労働者には、日本の給与システムにはグロスとネットがあり、税金や保険料などについて話す必要があります。天引きされる理由や、他の人たちも同じように天引きされていること、引かれる額は一定でなく所得に応じて変動することなどを説明しましょう。
可能であれば、グロスとネットをシミュレーションして提示すると、より納得が得られやすくなります。

エクスパッツとは?

日本で働く外国人には二つのタイプがあります。一つ目は「ローカル」という区分で、現地(日本)で採用された人のことを指します。もう一つは「エクスパッツ」と言い、海外で採用された人が転勤・出向によって日本で働くことを意味します。

基本的に、日本に住んでいるのであれば通常の社会保障制度の適用対象となりますが、条件(派遣期間5年以内など)に当てはまる場合は免除され、派遣元の国の社会保障制度が適用されることになります。
そのため、同時に日本と派遣元の二か国に保険料や税金などを支払っていた、などということがないよう注意が必要です。

日本では、本来はエクスパッツ本人が負担するべきである税金や社会保険料を、企業が代わりに支払っているケースが散見されます。この場合、企業が負担しているお金は「経済的利益」に該当するとみなされ、課税対象となります。そのため、企業は負担した金額に関する処理が必要となります。

昇給する場合の計算方法

日本人と同じく、外国人労働者も勤続年数や能力によっては昇給があります。
多くの日本企業は年功序列を前提とした「職能給」を採用していますが、外国人労働者にとってはあまり馴染みがない制度です。どうやったら給与が上がるのか、なぜ上がらないのかと疑問に思われることがあるため、昇給システムについても明確に提示しておく必要があります。

計算の仕方は、基本的には日本人と同じですが、昇給する場合には社会保険料や所得税などの金額も上がることを説明しましょう。

外国人の給与に源泉所得税はかかる?

源泉所得税は外国人労働者の給与にも発生しますが、居住者の場合と非居住者の場合で金額は変わります。

居住者と非居住者の違い

居住者とは、日本国内に住所がある人、もしくは1年以上日本に住んでいる人のことを言います。この場合の「住所」とは、生活している場所のことを指し、職業、労働者の配偶者もしくはその親族、資産の所在などの客観的事実によって決まります。エクスパッツで1年以上日本に居住している人も居住者とみなされ、源泉所得税が徴収されます。
また、国内で事業を営んでいたり、職業に就くために国内に居住したりしている人に関しても、在留期間が1年未満と明確に決められていない場合は、すべて居住者となります。

非居住者に該当するのは、1年未満日本に住んでいる外国人労働者、すなわち日本に居住していないと推定された個人です。

居住者の場合

上記で説明したように、居住者は日本に住所がある人のことを言うので、日本人と同様に源泉所得税が徴収され、年末調整により年間の税金の精算をします。

非居住者の場合

非居住者は、原則として税率20.42%で源泉徴収が行われます。しかし、租税条約が適用され、源泉所得税が免除される場合があります。
租税条約の適用には、所轄税務署に届出書などを提出する手続きが企業に必要となっています。

タックス・イコライゼーション契約とは?

タックス・イコライゼーションとは、海外で採用され日本に出向・派遣される場合(エクスパッツ)、派遣元での手取り額と同等の手取り額を保障するために調整することを言います。手取り額から源泉所得税や社会保険料、雇用保険料を逆算して計算するグロスアップ計算を用います。

グロスアップ計算とは

グロスアップ計算とは、手取り額に合わせて総支給額を逆算することを言います。
エクスパッツで企業が外国人労働者の所得税を負担する場合、手取り額を保証するためなどに用いられます。
福利厚生の一種ですが、給与計算は少し複雑となります。

外国人の給与支払いに電子マネーが解禁?

2018年12月17日、給与の支払いに電子マネーが解禁される政府方針が決定され、2019年度の実施が目指されることになりました。
その目的や、外国人労働者にとってのメリットとデメリットについてご紹介いたします。

電子マネー解禁の目的

給与支払いに電子マネーが解禁された主な目的は、キャッシュレス化の推進です。その他、銀行口座の開設・手続きが難しい外国人労働者への給与の支払いを簡素化することも目的の一つです。

メリット

電子マネー解禁のメリットは、銀行口座がなくても給与が受け取れること、手続きが簡単なこと、電子マネーの種類によってはポイントが付与されることなどが挙げられます。

企業側にとっても、給与の管理に関する負担が少なくなるなどのメリットがあります。現金で給与を支払っていたところだと、現金を持ち歩かなくてもよくなり安心という点もあります。

デメリット

最大のデメリットは、電子マネー管理会社の経営破綻のリスクです。万が一管理会社の経営が行き詰った場合、入金済みの給与が保証されない可能性があります。
また、電子マネーは、現金として引き出す際には手数料がかかってしまう場合がほとんどです。銀行口座は平日の時間内手数料は無料のところが多いため、現金を使いたい人にとっては損となってしまいます。

まとめ

外国人労働者は、給与が上がる条件や上昇額を明確に提示しないと、どんどん転職してしまう傾向があります。モチベーションを保つためにも、事前に説明してあげましょう。

また、外国人の給与は、手取り額が同じでも、ローカルかエクスパッツか、居住者か非居住者かによって総支給額や源泉所得税は異なります。
雇用する側が租税条約が有効な場合の手続きやグロスアップ計算をきちんと理解した上で、給与表などを提示し具体的に説明することが重要になります。

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