医療技術の進展や衛生環境、栄養状態の改善などにより、長寿命化が進んだ現代では、人々のライフスタイルや価値観の変化に伴う少子化も相まって、高齢者の占める割合がきわめて高い超高齢社会に突入しつつあります。日本もそうした社会構造となってきた代表的な国のひとつであり、年齢を重ねることによって増える、日常生活で介護を必要としている方が非常に多くなりました。
ところが、高まる一方の介護ニーズに対し、その介護を担う人材は十分でなく、介護施設などにおける人手不足が年々深刻化しています。介護職で採用を進めようにも思うように人員を確保できず、悩まれている事業者・施設運営者の方も多いでしょう。
そこで今回は、介護施設における慢性的な人手不足が発生する原因とその解決策、知っておきたい採用のコツを分かりやすく解説していきます。
この記事の目次
介護施設での人手不足の原因は?
介護の現場における人手不足は深刻で、厚生労働省が2021年7月に公表した介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数によると、2023年度には約22万人、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人の人員が追加で必要になると算定されています。
求職者1人に対し、何件の求人があるかを示す有効求人倍率については、現在の介護領域における動向をみても、2022年1月では「介護サービス」が3.68倍、「介護関係職種」が3.76倍となっており、全職業を対象とした場合の1.14倍を大きく上回る値となっていました。新規求人倍率になるとさらに高く、「介護サービス」は5.24倍、「介護関係職種」が5.30倍でした。
介護業界の仕事におけるこうした求人倍率の高さは、決して一時的なものではなく、長期的にみても高止まりの値で推移しています。
多くの求人があり、仕事を探している人にとっては自分に合った場も見つけやすいと考えられる状況で、これほどの人手不足が慢性的に続いている原因はどこにあるのでしょうか。
採用が困難
介護施設において人手不足となる最も大きな要因は、採用の困難さにあるといえます。公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度事業所における介護労働実態調査」の結果によると、事業所側が感じる従業員不足の理由では、「採用が困難である」が90.0%と圧倒的に高いトップとなっていました。
採用が困難である原因としては「同業他社との人材獲得競争が厳しい」が57.9%で最も高く、次ぐ2位は「他産業に比べて、労働条件等が良くない」の52.0%となっています。
そもそもすでにあるニーズに対して限られた人材しか応じていない中、どこの介護施設でも人手不足に悩んでいるため、求人を出してもほかに取られてしまう、競合他社との採用競争に勝つことが難しいという現状があることが分かります。
介護現場で長く活躍し、介護福祉士などの資格を取得している介護職従事者をはじめとした高度人材はとくに強く求められていますが、その多くは直接雇用で働くよりも手取り収入を伸ばしやすい派遣会社を通じた就労を望む傾向にもあります。これは慢性的な人手不足から、派遣の案件がなくなる可能性が非常に低い売り手市場が続いていることも強く影響しているでしょう。
煩わしい人間関係を嫌ったり、条件が自身のライフスタイルと合わなくなったりすることもあります。その点でも柔軟に対処しやすい派遣が選ばれやすく、直接雇用の採用にメリットを見出す人が少ないということも、採用活動を困難にしています。
離職率が高い
事業所が感じる人材不足の理由は、「採用が困難である」が圧倒的に多いものの、これに次ぐのは「離職率が高い」ことです。法人格で民間企業による事業所となると、さらに離職率は高まります。
公益財団法人介護労働安定センターが実施した「令和元年度介護労働者の就業実態と就業意識調査」で離職理由をみると、最も多いのは「結婚・妊娠・出産・育児のため」ですが、次いで多いのが「職場の人間関係に問題があったため」、3位は「自分の将来の見込みが立たなかったため」、4位に「収入が少なかったため」、5位は「ほかに良い仕事・職場があったため」となっています。
女性が担っているケースも多く、妊娠や出産によって離職する例が多くなりがちであるほか、職場での人間関係、コミュニケーション不足といった面も強く影響していることが分かります。日々の業務に追われる中でじっくりと話すことは難しく、また互いが余裕のない状態で接するために、人間関係としてこじれやすいといった介護現場の実態が背景にある可能性も高いでしょう。
場合によっては、介護を担当する利用者から暴言を吐かれたり暴力を振るわれたりして強いショックを受け、続けられなくなることもあります。もちろん、それは認知症によるなど理由や事情あってのことであるケースがほとんどですが、多くの人と接する中で困難を生じ、得られる対価としての賃金の低さも相まって離職を決める人も少なくありません。
マイナスなイメージがある
介護の仕事は高い需要があり、また人と直接関わって生活を支える重要な役目を果たすもので大きなやりがいを感じられますが、一方で世間一般の受け止めにおいては、業界全体でマイナスイメージが根強くあるといえます。
介護の大変さは誰もが理解するところとなり、プロとしてそれを支える現場も、典型的な「きつい、汚い、危険」が揃う3K職場というイメージが色濃くなっているのです。要介護者には、入浴や食事、排泄といった人間が生きる上で欠かせない基本行動のそれぞれに介助が必要で、介護職として現場に臨むなら、当然、日々それに向き合わなくてはなりません。
身体の移動をサポートしたり用具を運んだり、肉体労働として力を必要とする場面も多く、体力に自信がなければ続けられない、腰を痛めてしまうことも少なくないといった問題や、常に気を抜けず夜間にも及ぶ業務、認知症患者の保護・徘徊防止、利用者の思わぬ転倒などによる怪我や容態急変、さまざまな危険と隣り合わせで、やはり過酷な仕事だということは否定できないところがあります。
もちろんマイナスのイメージがあまりに先行しすぎ、実際に働いてみれば、適性がありやりがいも大きいので向いていた、学ぶこと・発見できることも多い仕事で、業務の大変さはあるものの慣れれば問題なかったといった人もいます。しかし、いくら仕事として多くの募集があっても、やはりイメージからハードルが高い、大変そうと尻込みしてしまう人が非常に多いのも事実なのです。
人手不足を解消するには
では、こうした背景によって生じている介護施設、介護職の人手不足は、どうすれば解消できるのでしょうか。
まず、働きやすく続けやすい労働環境の改善が挙げられます。従来の集団ケアから10人程度の少人数ユニットを作ってそのユニット単位でケアを行うものとし、目が届きやすく、職員のストレスも軽減できるような仕組みを整えたり、夜間を中心に見守りをサポートするロボットや専用IoT機器の導入、管理資料等の作成支援にかかる半自動化システムの構築などを進めてICTによる業務負担軽減を図ったりといった対策が有効でしょう。
企業理念や施設における具体的な取り組み、考え方を積極的に発信し、世間に広がるマイナスイメージを改善するとともに、人材採用のミスマッチを低減して、職場定着を図ることも重要と考えられます。
労働環境とあわせ、大きな問題になっている賃金の低さも改善が必要です。大幅な賃金水準アップは施設運用面から考えても難しく、社会全体での意識改革や制度変更が大々的に実施されない限り、実現しづらい面があります。しかし、介護職として適性があり、長期的に働きたい意欲のある人材には、スキルアップ・キャリアアップの支援を行い、資格取得や外部研修受講を奨励、少しでも高い賃金で安定して働けるよう、チャンスとサポートを充実させていくといった策ならば検討できるでしょう。
それでも上手く人員が確保できないならば、採用手法やその考え方を見直すことも重要です。国内人材だけでなく外国人雇用にも目を向ける、募集窓口の多角化・最適化を図るといった対策が考えられます。そこで以下では、この採用プロセスにフォーカスし、人手不足解消につながる採用のコツをみていきます。
採用方法は大きく5つ
採用方法としてはさまざまなルートが考えられますが、大きく分けると5つの手法があります。それぞれについてメリット・デメリット、特徴などをみていきましょう。
求人サイトを利用した求職者からの直接応募
第1の方法として、求人サイトへ介護職の人材を募集している旨、情報を掲載してもらい、求職者からの応募を待つ方法があります。介護ジャンルに限らず最も基本的な採用方法であり、主要求人サイトであれば数十万~数百万といった多くの登録求職者にまとめてアプローチできる点が大きなメリットです。
かつては紙媒体の求人情報誌や求人広告・チラシも存在感を放っていましたが、昨今はWebベースの求人サイトが主流となっています。とくに地域密着でエリアや読者層を限定し、募集をかけたい場合には紙媒体が力を持つケースもありますが、紙とWebの両方に対応しているものも多く、Webサービスを第一ベースに考えておくのが現代としてはスタンダードでしょう。
利用する際はターゲット像を明確にした上で掲載媒体を慎重に選定し、どれだけの予算でどのようなコンテンツをどう掲載してもらい、採用に向けて動いていくのか、よく計画を練った上で、求人サイトのサービス運営会社に連絡しましょう。
人材会社を利用した応募
求職者個人からの直接応募のほかに、人材会社を利用する方法があります。対象人材会社に登録済みの候補者を派遣してもらったり、紹介してもらったりして採用するものです。主に次の3つの手法があります。
人材派遣
人材派遣会社に依頼し、その会社が雇用するスタッフを介護施設などの事業所現場に派遣してもらい、労働力を得る方法です。人材派遣の場合、労働者が雇用契約を結ぶのは派遣元の派遣会社であり、実際に働く現場を管理する派遣先の企業ではありません。しかし、仕事の指示は出すことができ、それに従って働いてもらうことができます。この仕組みが人材派遣の大きな特徴です。
昨今は介護領域に特化した人材派遣会社もあり、即戦力として頼りになる専門人材を確実に派遣してもらえる点にメリットがあります。派遣での働きぶりをみた上で、労働者との合意がとれれば、その後に正社員として雇い入れることも可能です。
人材紹介サービス
人材紹介サービスは、求職者のデータベースを構築している人材紹介会社に依頼し、求める経験やスキル、資格などを有し、提示する条件に合った人材を紹介してもらうものです。求人サイトや自社ホームページ、SNSアカウントなどで募集をかけても、なかなか希望の人材が得られない介護施設に向いています。
職場となる介護施設の特徴や良さ、運営方針などを上手く伝えるコンテンツやテキストの作成が難しい、求人広告に予算をかけられない、確実に求めるスキル人材が欲しいといった場合にはおすすめです。
紹介予定派遣
あまり耳慣れないかもしれませんが、紹介予定派遣という新たな手法も広がってきています。直接雇用を前提に進める人材派遣型サービスで、一定期間の派遣による就業期間ののち、適性を見極めた上で雇用契約を締結、正社員とするものです。
正社員として長期にわたり、安定して働いてくれる優れた人材を求めているけれど、求職者からの応募を待っていてもほとんど問い合わせがない、できるだけ早く人材を確保したい考えはあるものの、採用や教育コストの面からも可能な限りマッチングを高め、早期離職となるような事態は防ぎたいといったケースに向いています。
また、一般的な人材派遣と違ってその後の直接雇用を前提として動くので、高度スキル人材、即戦力となる優秀な人材を提供してもらいやすく、獲得ハードルの高い介護職の優れた人材も確保しやすいというメリットもあります。人材派遣では行えない事前の面談も行えるため、その点も安心です。
ミスマッチなく人材を採用するコツ
採用までのプロセスや現場で働いてもらうための研修や教育など、戦力となる人材を確保するには、想像以上に費用と手間がかかるものです。それだけコストをかけて実施するので、ミスマッチや離職が起こることは避けたいですよね。
ではミスマッチのない採用を進めるには、どうすれば良いのでしょうか。まず、現実とのギャップが生じないよう、選考時点から応募者に現場を理解してもらうこと、業務内容や運営方針について正しく納得してもらうことが重要です。とくに介護職員初任者研修を受講していない未経験者などの場合、食事介助・入浴介助・排泄介助の三大介護すら、よく理解していないこともあるので、生理的嫌悪感がないかきちんと適応できるか確認が必要です。採用候補者に事前のアプローチがとれるならば、事前に勤務先となる介護施設内部の状況を見学してもらうといったことも有効です。
介護施設によっては、現場と離れた本社事務所が採用活動を一括して行っているなど、現場の声を踏まえないで進めてしまうケースもみられますが、こうした採用では人員の数を確保することだけが目指されてしまい、現場のコミュニケーション不全が発生しやすい環境、早期離職を生みやすい労働環境となりがちです。新たな仲間として受け入れる側の声にもしっかり耳を傾けましょう。現場要望をヒアリングし、募集条件に反映させたり、面接を実施する際には現場のリーダーに同席してもらったりして、受け入れ体制を整える工夫も重要となります。
そして、求職者が何を望んでいるか、職場選びで重視している点を把握し、やりがいを感じやすくすること、就労満足度を上げる工夫をすることが、中でも大きなポイントになるでしょう。
働きやすく、やりがいを感じられやすい環境の整備、モチベーションアップの工夫を進めることはもちろん、その取り組みをアピールすることも、採用において重要です。改善方法やアピールポイントが見出しにくい施設では、人材サービスの会社にアドバイスを仰ぐこともできます。
もともとミスマッチの可能性を低減しやすい紹介予定派遣の仕組みを活用することも視野に入れてみてください。これらの多角的取り組みや工夫により、マッチング精度を上げ、効率良く優れた成果を上げる採用活動としていくことが重要です。
採用には人材サービスを利用するのがおすすめ
せっかく採用活動を行うならば、優秀な人材を獲得したい、その人材に自社が運営する介護施設で長く活躍して欲しいと考えるのは当然のことでしょう。
確実に即戦力となってもらえるよう、有資格者の経験豊富な人材をターゲットにする、自社の運営方針や企業理念に理解があり、熱意ややる気が高い人材、現場への適応能力が高い人材、ストレス耐性のあるタイプを見極めるといったことは、選考時の工夫として考えやすいポイントです。
もちろんこれらも非常に重要ですが、先に介護業界における人手不足の原因背景としてみてきた要素など、この業界特有の難しさが厳然としてある中、良い人材と出会い、獲得することは容易ではありません。優れた人材を見出せても、内定承諾率が伸び悩んだり、すぐに転職されたりしてしまうケースも少なくありません。
難しい環境下でできる限りの良い結果を効率良く得るには、プロの手を借りることが有効です。個々に異なる事情を踏まえ、その介護施設や事業所に合った求職者を探し、最適なマッチングとなるよう支援してくれる人材サービスの利用を検討してみてください。
まとめ
介護施設における慢性的な人手不足は深刻な問題であり、今後も困難な状況が続いていくことが予想されます。思うように人材が確保できていない、求人広告の費用対効果が良くないと悩まれているなら、実績のある人材サービスの利用を検討してみましょう。人材派遣はもちろん、人材紹介や紹介予定派遣といったスタイルも選択できます。
これまで目を向けてこなかった層からの人材活用提案を受け、人手不足を解消できた、離職率が低下したといった効果を上げているケースも多くあります。人材課題解決に向け、人材サービスを活用しつつ、柔軟で多角的な角度から取り組みを始めてみてください。