人材不足が申告になっている昨今、企業は従来の採用手法のみでは労働力の確保が難しくなってきています。
そこで注目されているのが、採用を論理的に考察する「採用学」という分野。
採用学では、採用活動をデータ化して分析し、企業が抱える課題や、採用するべき人材像を明らかにしていきます。
今回は、採用学の概要と、企業の採用活動に採用学を活かす方法についてお伝えします。
この記事の目次
採用学とは
採用学とは、企業の採用について分析し、理論的・体系的に考える学問です。
まだ「経営学」などのように確立された学問分野ではありませんが、採用の効率を上げることで企業全体に及ぼすメリットは大きいです。
人材不足により労働力の確保が難しくなっている昨今、より効果的に採用活動を行うため、採用を科学的に分析する動きが出てきています。
採用学の目的
採用学の目的は、採用に論理的な後ろ盾をつけ、より効果的な採用活動を行うことです。
採用が成功するどうかは、>人の感情や人同士の相性に左右されやすいと思われがちですが、データを分析すれば必ず結果を左右している重要事項が見えてきます。
そこから、企業が抱える課題や改善方法を導き出し、採用担当者のセンスや運に頼らない、確実性の高い採用を行うことができるようになるのです。
海外における採用の現状
日本に先んじて、海外ではすでに採用を科学的に考える動きが始まっています。
カナダのカルガリー大学での研究によると、リクルーターの能力や言動が求職者の入社意思決定に極めて重要な影響を与えていることがわかっています。
そのため、海外ではリクルーターが専門性の高い仕事として認識されていて、様々なデータから導き出された採用ノウハウを身につけているのが当たり前です。
また、訴訟文化が根付いているアメリカでは、不採用にした人材から「なぜ私を落としたのか」とクレームを受けた時、明確に答えられないと訴訟に発展するリスクがあります。
さらに、海外では中途採用が主流で、一人当たりの採用にかけるコストが大きいことも、日本に比べて海外で採用学が発展している理由と言えるでしょう。
採用学で解決できる問題とは?
それでは、採用学を学ぶとどんなことに役立つのか、企業が抱える具体的な課題から見ていきましょう。
日本企業の問題点
現在、日本企業が新卒採用において抱えている課題は、主に以下の4つが挙げられます。
- 曖昧な採用によるミスマッチ
- 自社が求める能力の理解不足
- 長引く採用活動
- 就職サイトへの依存
これらの問題の解決に、採用学がどのように活かせるのかを解説していきます。
曖昧な採用によるミスマッチ
まず、新卒採用の時点では、企業も学生もお互いに何を期待しているのかが曖昧です。
曖昧な基準のまま人材を採用しても、働いていく中でミスマッチが生まれ、それが早期離職に繋がるのです。
採用学を活かし、自社の強み・弱みや採用したい人材のペルソナを詳細に分析することで、このようなミスマッチを減らすことができます。
自社が求める能力の理解不足
学生にどんな能力やスペックを期待するのかということも、把握できていない企業が多いです。
「自社に必要な能力を持っている」という条件は、募集の時点である程度間口を絞ったり、集まった応募者を整理する基準になります。
選考フローの初期に人材を整理できることで、効率的な採用ができるようになるのです。
長引く採用活動
採用したい人材像や求める能力が明らかになっていないと、応募者をパーソナリティでしか判断することができません。
しかし、人の性格を短時間で見極めることは難しく、長時間の面接を何度も繰り返すことになります。
長引く採用活動は、手間・時間・コストすべての面でロスが大きいです。
採用学を活用して効率的に採用活動を行うことで、こういった無駄を削減することができます。
就職サイトへの依存
現在の新卒採用は、マイナビやリクナビといった就職サイトに依存している部分が大きいです。
就職サイトは、エントリー数を稼ぐ機能としては便利なツールですが、その会社にあまり興味・関心のない学生が応募してくるのも事実です。
この時に起きるミスマッチが、企業側にも学生側にも問題となってきます。
そこで採用学を利用し、求める人材の具体的な能力を問うアプローチが有効となります。
学生側の問題点
学生側も、新卒採用を重視しすぎるあまりに抱えている問題点があります。
それは、就職活動のための学生生活になってしまっていること。
学生は、多くの企業が人とは違う経験や能力を求めていることをよく理解しています。
その為、本来の学生自身が学びたいことではなく、経歴を作るための留学、就職のための起業など、本末転倒なことが起きているのが現状です。
採用学を活かして新卒採用の本質を考える事は、企業側・学生側にそれぞれメリットが大きいといえます。
採用学を企業が活用するには
採用学を活用して採用活動の効率を向上するには、「募集・選抜・定着」という3つのフェーズに分けて必要なテクニックを用いていくのが大切です。
①自社の理解を深める
まずは募集を始める前に、採用担当者自身が自社への理解を深めるのが重要です。
自社の現状をしっかり把握することで、力を入れるべき施策や採用したい人材像が見えてきます。
採用に関する自社のデータを活用
まず初めに、自社の採用に関するデータを徹底的に分析しましょう。
例えば、社員の入社後のパフォーマンスと、入社時の適性検査の結果を紐付けることで、適性検査でどのような結果を出した人材が自社で活躍しやすいのかが見えてきます。
また、面接では漠然と求職者の話を聞くのではなく、「この面接で何を見極めたいのか」を明確にすることが必要。
その見極めるべき要素も、過去のデータを分析する中でわかってくるでしょう。
早期離職が課題になっている企業では、面接に「人材を見極める場」だけではなく「人材に納得を促す場」としての機能を持たせるといった対策方法もあります。
自社にとっての「優秀な人材」を定義する
自社の採用データを分析する中で、自社にとって「優秀な人材」とはどんな人かが見えてくるはずです。
例えば、新卒採用ではコミュニケーション能力が非常に重視されますが、データを見ると実際に結果を出しているのは黙々と仕事をするタイプの人材、ということもありえます。
世間一般の感覚ではなく、自社が求めるペルソナを設定することで、効率的な採用活動が可能になるのです。
②募集
自社の分析が出来たら、実際に募集を始めていきます。
募集の時点である程度間口を絞り、採用したい人材にピンポイントでアピールすることで、後の選考の人的・時間的コストを削減することが可能です。
複数のメディアで一貫した情報発信
自社の分析を行って見えてきた「自社の強み」や「欲しい人材像」は、複数のメディアで一貫してアピールしていきます。
一般的に、求職者は説明会・見学会など実際に見聞きするメディアと、求人サイト・企業サイトなどのウェブ系のメディアの両方から情報を得たいと考えています。
そして、求人情報で見た情報と、説明会のテーマが一致していると、説得力が約1.5倍になるという調査結果もあります。
複数メディアで一貫した発信を行うことは、採用学上欠かせない要素なのです。
自社の特色の打ち出し方を工夫する
人材不足が深刻な昨今、採用活動において企業は「選ぶ側」から「選んでもらう側」になりつつあります。
そのため、他社との差別ポイントとして自社の特色を打ち出すことがとても重要。
自社の強みをしっかりアピールするのはもちろん、あえて自社が抱える課題を明らかにして、納得した人材にのみ選考に進んでもらうのも一つの方法です。
③選抜
選抜の段階では、応募者の中から本当に自社に必要な人材を絞り込んでいくプロセスが重要となります。
求職者に選択権を与える
効率的な採用を実現している企業では、応募の段階で求職者に選択権を与えているのが特徴的です。
募集段階で広く人に知られることは重要ですが、その膨大な母数がそのままエントリーに進んでしまうと、エントリーシートの確認などに非常に手間がかかります。
募集要項の中で自社に合う人・合わない人の人物像を明確にし、応募するかどうかの選択をまず求職者自身に行ってもらうことで、選抜初期の手間を減らすことができるのです。
1次選考で重い課題を与える
1次選考は、当然ですが参加する求職者が最も多い選考プロセスです。
ここで効果的に母数を絞り込むことで、後の選考フローを短縮することができます。
例えば、ライフネット生命では新卒採用1次選考の課題として、深い考察が必要な論文を課しています。
この時点で、そもそも志望度の低い学生を振り落とせますし、論文を通じて一人ひとりの考え方を理解することで、自社にあった人材を見極めることができます。
④定着
最後に、入社させた人材のモチベーションを保ち、早期離職を防ぐ「定着」のプロセスも重要となります。
リアリティショックも重要なプロセス
現実と自分が頭に描いていた理想とのギャップのことを「リアリティショック」と言います。
採用におけるリアリティショックとは、「仕事が思っていたより難しい」「職場の雰囲気が入社前のイメージと違う」などが挙げられるでしょう。
リアリティショックは社員のモチベーションを下げ、離職へと向かわせる要素になります。
しかし、リアリティショックを受けたときに、現場の適切なフォローや人事のサポートがあれば、むしろ人材を定着させる要因にもなるのです。
リアリティショックを完全に防ぐのは難しいことですが、新入社員が直面したショックをフォローする体制が重要となります。
まとめ
採用学は、「採用を科学的に考える」という新しい分野の学問。
まだ発展途上ではありますが、理論に基づいた採用ノウハウは確実に構築されてきています。
データを分析して論理的に採用を行うことで、採用活動の効率を向上していきましょう。