逮捕もありえる?不法就労助長罪を解説

2019年4月より在留資格「特定技能」が新設され、今後、日本企業はますます多くの外国人を雇用することが予想されています。
外国人を雇用する企業が増える一方、懸念されているのが不法就労問題です。ここでは、外国人を雇用する企業であれば知らなかったでは済まされない不法就労について、また「不法就労助長罪」について解説します。外国人を雇用する立場にある方は、ぜひ参考にして下さい。

不法就労助長罪で逮捕されるのはあり得る

まず、出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条の2 第1項1号によると、「不法就労助長罪」は以下のように定義されています。

第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者

e-Gov「出入国管理及び難民認定法」より引用

なお、懲役とは逮捕され刑務所に入ること(不法就労助長罪の場合は3年以下の懲役)で、併科とは罰金と懲役の両方(300万円以下の罰金と3年以下の懲役)を受けることです。「不法就労助長罪」はかなり重い刑罰であることが分かります。

不法就労にあたる外国人とは

そもそも「不法就労」とはどういう行為のことなのか大まかに言うと、正規の在留資格を持たない外国人が働いて収入を得ることです。
その中にもいくつかのパターンがあるので、それぞれ解説いたします。

短期滞在ビザで在留している

短期滞在ビザは観光や研修・商用を目的として日本に短期間(最長90日間)滞在できるものです。この短期滞在ビザで滞在している外国人は報酬を得る活動が一切できません。簡単な手伝いのつもりでも、報酬を得ると不法就労に該当します。宿泊代の代わりとして外国人観光客にベッドメイキングをさせた宿泊施設の経営者が逮捕されたケースもあり、「知らなかった」では決して済まされません。

密入国や在留期限が切れている

不正に日本に入国している場合や、在留期限が切れている状態で働くことは不法就労にあたります。密入国の場合は母国に強制送還される状況(被退去強制者)ですし、在留期限が1日でも切れていれば不法滞在者にあたりますので、当然ながら雇い入れることも許されません。

非就労ビザで在留していて特別な許可を受けていない

原則的に、在留資格「留学」「家族滞在」は就労することのできない非就労ビザです。これらの非就労ビザを持つ外国人が報酬を得る労働を行う場合、「資格外活動許可」を受けなければなりません。資格外活動許可を受けずに働いて報酬を得ると、不法就労にあたります。

資格外活動許可とは

資格外活動許可は「留学生」や「家族滞在」の在留資格に適用されるものです。地方入国管理局に申請し、許可が下りれば週28時間までパートやアルバイトができるようになります。
ただし、労働の内容によっては許可がもらえないこともあります。また、資格外活動許可には有効期限があるので、期限が切れた後に働くと不法就労にあたります。

留学生はバイト時間にも注意

留学生がアルバイトできる時間は、以下のように定められています。

・学校のある時期:週28時間以内
・夏休みなど長期休みの期間:1日8時間まで

資格外活動許可を取得していても、この時間を超えて労働した場合は不法就労となります。なお、アルバイトの掛け持ちをした場合も、働けるのは合計週28時間までとなっています。

就労系のビザを持っているが在留資格に合った仕事でない

就労系の在留資格を取得している外国人は、在留資格に合った仕事をしなければなりません。在留資格に該当しない労働を行うと不法就労にあたります。
ただし、ボランティアなど報酬を受けない労働は当てはまりません。

不法就労助長罪に問われる人とは

「不法就労助長罪」に問われるのは、具体的にどのような行為でしょうか。冒頭で紹介した出入国管理及び難民認定法(入管法)第73条2 第1項1号に基づいて解説します。

外国人に不法就労を斡旋した

外国人に不法就労をさせたり、あるいは不法就労のためにパスポート取得や宿舎などを斡旋したりするいわゆる「悪徳ブローカー」業は、不法就労助長罪の処罰対象になります。また、外国人に悪徳ブローカーを紹介するなど、不法就労を仲介した場合も処罰の対象となります。

不法就労になると分かっていて仕事をさせた

不法就労になると知りながら外国人を雇って働かせた場合も不法就労助長罪に問われます。これは、従業員数を何千人と抱える大企業であっても、個人事業主であっても変わりません。内容が悪質だと、社長や役員、責任者も処罰される場合があります。

不法就労をさせるためにパスポートを預かる

不法就労外国人のパスポートを預かることも不法就労助長罪となります。パスポートは外国人が身分や在留の理由などを証明するために必要なもので、本人が常に携帯しておかなければなりません。逃げないように「支配下に置いた」とみなされます。

不法就労をさせるために宿舎等を提供した

不法就労している外国人に宿舎等を提供したり、入国費用を負担したりして「支配下に置く」ことも、不法就労助長罪に問われます。

不法就労助長罪に問われないために

不法就労助長罪に問われないためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。外国人の雇用を考えている人や、外国人が多い職場にいる場合は特に注意が必要です。

在留カードやパスポートを確認する

外国人を雇用する前に、在留カードやパスポートの確認を行う必要があります。パスポートなら、日本に上陸したときの上陸許可印(シール)、顔写真、氏名、生年月日、国籍を確認します。

また、短期滞在以外の在留資格で来日している外国人は必ず在留カードを携帯しています。雇用前に必ず以下の事項を確認しましょう。

在留カードが有効なものか

まず、在留カードの下部に記載されている在留カードの在留期間を確認します。期限が失効していないかどうかは、入国管理局の「在留カード等番号失効番号照会」に在留カード番号と有効期限を入力することで確認できます。
また、在留カードが偽造されたものではないかも確認しておきましょう。細かい見分け方も「在留カード等番号失効番号照会」で紹介されているので、ぜひ参照してください。

※法務省入国管理局「在留カード等番号失効番号照会

就労制限がないか

在留カードの中央付近水色の枠内に就労制限の有無が記載されています。もし「就労不可」と印字されている場合は、裏面下に「資格外活動許可」があるかを確認する必要があります。

在留資格に記載されている就労か

仕事の内容が在留資格に記載されている就労に該当するか、確認する必要があります。もし異なる場合は、必要な手続きを経て在留資格を変更しなければなりません。

不安であれば専門家に聞く

分からないことがあれば、雇用前に入国管理局や入管業務を専門としている行政書士や弁護士に問い合わせることをおすすめします。雇用してしまった後に不法就労であることが分かっても、知らなかったでは済まされず、不法就労助長罪となってしまいます。少しでも疑問があれば必ず雇用前に相談しましょう。

まとめ

不法就労の外国人を雇用して不法就労助長罪に問われると、雇用側が3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、あるいは両方の罰を受ける可能性があります。
不法就労助長罪とならないためにも、不法就労や不法就労助長罪の条件をきちんと理解しておく必要があります。また、雇用前にパスポートや在留カードの確認をしっかり行い、疑問や問題がある場合は入国管理局や専門家に確認するようにしましょう。

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