キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の労働条件を向上するためにある制度です。
条件を満たした事業者に現金が給付されるので、より良い条件での雇用を希望する労働者と、雇用主の両方にメリットがあります。
今回はキャリアアップ助成金の概要と、その中の「正社員化コース」について詳しく解説。
適用条件や、受給までのステップをお伝えします。
この記事の目次
キャリアアップ助成金の概要
キャリアアップ助成金は、厚生労働省が実施している助成金です。
全部で7つのコースがあり、正社員雇用の拡大や労働者の待遇改善などを目的にしています。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000616643.pdf
キャリアアップ助成金とは
キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者(まとめて「有期雇用労働者等」と呼ぶ)など、いわゆる非正規雇用の労働者のキャリアアップを促進するための助成金です。
7つのコースがあり、それらの適用条件を満たすと、雇用主である事業者に対して助成金が給付されます。
助成金額や適用条件は、コースによって細かに異なります。
キャリアアップ助成金の7コース
キャリアアップ助成金には、以下の7つのコースがあります。
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- 正社員化コース:有期雇用労働者を、正規雇用労働者・多様な正社員等へ転換する
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- 賃金規定等改定コース:有期雇用労働者等の賃金規定等を改定する
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- 健康診断制度コース:有期雇用労働者等に対し、労働安全衛生法上義務づけられている健康診断以外の一定の健康診断制度を新たに規定し、適用する
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- 賃金規定等共通化コース:有期雇用労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに設け、適用する
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- 諸手当制度共通化コース:有期雇用労働者等に関して、正規雇用労働者と共通の諸手当に関する制度を新たに設け、適用する
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- 選択的適用拡大導入時処遇改善コース:雇用する有期雇用労働者等に働き方の意向を適切に把握し、被用者保険の適用と働き方の見直しに反映させるための取組を実施する。その上で、労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置を導入し、当該措置により新たに被保険者とする
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- 短時間労働者労働時間延長コース:雇用する有期雇用労働者等について、週所定労働時間を5時間以上延長、または週所定労働時間を1〜5時間延長する。それとともに基本給の増額を図り、新たに有期雇用労働者等が社会保険の被保険者に適用する
キャリアアップ助成金の適用要件
キャリアアップ助成金には、全コース共通で一定の適用条件があります。
①事業主の要件
キャリアアップ助成金の支給対象となるのは、以下の要件を全て満たす事業主です。
これ以外に、コース別の条件が定められているものもあります。
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- 雇用保険適用事業所の事業主であること
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- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主であること
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- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に対し、キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であること
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- 該当するコースの措置に係る対象労働者に対する賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備している事業主であること
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- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主で゙あること
②キャリアアップ計画
キャリアアップ助成金を利用するには、事前に労働組合等の意見を聞いて「キャリアアップ計画書」を作成・提出する必要があります。
会社ごとの労働組合等の他に、労働局やハローワークも計画書の作成をサポートしています。
キャリアアップ計画書は、コース実施日までに所轄労働局長に提出します。
③生産性要件で上乗せも
キャリアアップ助成金の適用条件を満たしたことで、生産性が規定の数値以上に向上した場合、支給金額に上乗せがあります。
生産性は「付加価値÷雇用保険の被保険者数」で計算し、簡単に言うと労働者(雇用保険の被保険者)1人あたりが生み出す利益のことです。
生産性要件の基準は、「直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること」。
また、金融機関から一定の事業性評価を得ている場合、生産性の向上が1%以上6%未満でも上乗せが適用されます。
キャリアアップ助成金支給まで【正社員化コース】
それでは、キャリアアップ助成金の7つのコースのうち、「正社員化コース」について詳しく解説していきます。
対象従業員
正社員化コースの対象となる従業員は、キャリアアップ助成金の支給対象となる事業者が継続して6ヶ月以上雇用している有期契約労働者等(有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など)です。
該当の有期契約労働者等の雇用形態を、「有期雇用→正規雇用」「有期雇用→無期雇用」「無期雇用→正規雇用」のいずれかに変更した場合に適用されます。
助成金額
助成金額は、事業主の規模(中小企業か大企業か)・雇用形態の変更方法・生産性要件を満たすかどうかで異なります。
それぞれのケースでの助成金額をまとめると、以下のようになります。
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- 有期→正規:1人あたり57万円(72万円)
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- 有期→無期:1人あたり28万5,000円(36万円)
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- 無期→正規:1人あたり28万5,000円(36万円)
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- 有期→正規:1人あたり42万7,500円(54万円)
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- 有期→無期:1人あたり21万3,750円(27万円)
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- 無期→正規:1人あたり21万3,750円(27万円)
必要書類
キャリアアップ助成金の、正社員化コース適用を申請するための必要書類は、以下の通りです。
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- キャリアアップ助成金支給申請書 (様式第3号)
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- 正社員化コース内訳 (様式第3号別添様式1-1)
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- 正社員化コース対象労働者詳細 (様式第3号別添様式1-2)
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- 支給要件確認申立書 (共通要領 様式第1号)支払方法・受取人住所届(未登録の場合)
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- 支払方法・受取人住所届(未登録の場合)
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- キャリアアップ計画書(写)
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- 労働協約(写)または就業規則(写)、その他これらに準ずるもの(写)
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- 就業規則(写)または労働協約等(写)
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- 対象労働者の転換前後の雇用契約書または直接 雇用後の労働条件通知書または雇用契約書(写)
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- 対象労働者の賃金台帳(写)
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- 賃金5%以上増額に係る計算書
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- 対象労働者の出勤簿またはタイムカード(写)
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- 中小企業事業主であることの確認書類
このほか、生産性要件や母子家庭・父子家庭などの加算を受ける場合、その証明書等が必要になることもあります。
支給までの流れ
正社員化コースの計画から支給までの流れは、以下の通りです。
①対象労働者を6ヶ月以上雇用
キャリアアップ助成金の支給要件は、単なる正社員雇用ではなく、有期契約労働者等のキャリアアップです。
そのため、まずは対象者を有期契約労働者等として6ヶ月雇用する必要があります。
例えば、4月1日から雇用を開始した有期契約労働者等の場合、同年の10月1日以降に雇用形態を変更すると正社員化コースの対象となります。
②キャリアアップ計画の作成・提出
次に、事業者は「キャリアアップ管理者」を配置し、その人が中心となって「キャリアアップ計画書」を作成します。
このキャリアアップ計画書の内容は、働いている当事者である労働組合等の意見を聞いて作成しなければなりません。
計画書が完成したら事業所を所轄する労働局に提出し、労働局長の認定を受けます。
③就業規則の整備
キャリアアップ計画書に基づき、就業規則を整備します。
具体的には、「試験等の手続き」「対象者の要件」「転換実施時期」の規定が必須です。
就業規則の改定後には、労働基準監督署に届出を行います。
ただし、10人未満の事業所の場合には、労働組合等の労働者代表者の署名・押印によって労働基準監督署への届出に代えることもできます。
④正規雇用へ転換
就業規則の整備が完了したら、規則で定めた試験などを実施し、有期契約労働者等を正規雇用等に転換します。
この際、転換後の雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付する必要があります。
また、転換前6ヶ月と転換後6ヶ月の賃金を比較したとき、5%以上増額していることも必須条件です。
⑤転換後6ヵ月分の賃金を支給
雇用の転換から6ヶ月経ち、6ヶ月分の賃金を支給するとキャリアアップ助成金の至急申請が可能になります。
申請期間は、6ヶ月目の賃金を支給した日の翌日を起算日とし、2ヶ月以内です。
⑦支給申請・支給決定
申請後、審査を経て支給が決定します。
キャリアアップ助成金利用の注意点
キャリアアップ助成金は、労働者本人ではなく雇用事業主に支給される助成金です。
そのため、支給条件を満たしたらすぐに解雇したり、正規雇用から有期雇用に戻すといった、詐欺のような利用方法も懸念されます。
キャリアアップ助成金は、支給決定後に実地調査があり、適切に労働者を雇用しているかどうか帳簿等の確認が求められることがあります。
不正受給が発覚した場合、助成金の全額返還と返還額の20%の違約金納付、さらに以後3年は雇用関係の助成金が利用できなくなるというペナルティがあります。
また、キャリアアップ助成金には申請期限があります。
例えば正社員化コースの場合は、申請期間が条件を満たしたあとの2ヶ月しかありません。
期限を過ぎてしまうと支給対象ではなくなるため、スケジュールを守って申請するようにしましょう。
最後に、キャリアアップ助成金を含めた助成金は、基本的に支給対象が同じものは併用することができません。
ただし、「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」や「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」など、一部併用できる仕組みになっているものもあります。
まとめ
キャリアアップ助成金は、正規雇用を希望する労働者と、資金調達をしたい雇用主の両方にメリットがある制度です。
ただ雇用方法を転換するだけではなく、事前の準備が必要なので、非正規→正規の転換を検討している場合には早めに準備を始めましょう。