外国人雇用時の社会保険について

厚生労働省の調査によると、2018年10月末時点での日本で働く外国人の数は146万463人で、前年同期比18万1,793人(14.2%)の増加となっており、今後もますます増加していくとみられています(※)。

雇用形態を問わず、日本人が会社で働く場合は社会保険の加入が義務化されていますが、外国人の場合はどうなのでしょうか。ここでは、外国人を雇う場合の社会保険について解説いたします。今後、外国人を雇用する可能性がある人はぜひ参考にして下さい。

※厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」より

社会保険は外国人も基本的には日本人と同じ

日本の社会保険には、「厚生年金保険」「健康保険」「労災保険」「雇用保険」があります。まずはそれぞれを簡単に説明します。

厚生年金保険…老後の生活や病気、ケガなど、何かのきっかけで生活が難しくなった時のための保険制度
健康保険…病気などで日本の医療機関を受診する際、医療費の一部を負担することで診療を受けられる保険制度
労災保険…仕事中や通勤途中の事故でケガをしたり、業務が原因で病気になったりした場合に労働者や遺族に補償を行う制度
雇用保険…労働者が失業した場合など、一時的に働けなくなった時に必要な給付を行う保険制度

基本的に、外国人でも日本で働いていれば社会保険の加入義務があります。ただし、いくつかの点で注意が必要となります。

外国人の健康保険と厚生年金について

事業主が法人の場合、健康保険と厚生年金に関しては必ず加入手続きをしなければなりません。また、健康保険と厚生年金はセットになっていて、どちらかだけに加入することはできません。

ここからは、外国人労働者の健康保険と厚生年金について、それぞれ解説いたします。

外国人の健康保険

外国人を雇用する企業には、必ず「全国健康保険協会」に加入しなければならない「強制適用事業所」と、任意加入の「任意適用事業所」の2種類があります。

従業員の人数・国籍に関わらず、雇用主が法人の場合はすべて「強制適用事業所」となり、基本的に健康保険・厚生年金保険への加入が義務となります。

健康保険の免除条件とは

外国人が健康保険に加入する際、適用免除される場合もあります。

従業員数500人以下の事業所
外国人従業員が以下の2つに該当する場合、加入義務はありません。

パートタイム・アルバイトで働いていて、1ヶ月の平均所定労働時間が正社員の4分の3以下である
社会保障の協定締結国の健康保険に加入している(※社会保障の協定締結国については後述)

従業員数501人以上の事業所
外国人従業員が以下の4つの条件すべてに該当している場合、加入義務はありません。

週の労働時間が20時間以下
月の賃金が88,000円以下
雇用の期間が1年以下
夜間や通信学校、定時制ではない学生

ただし、健康保険と厚生年金はセット加入となっているので、健康保険の免除条件に当てはまっていたとしても、これから説明する厚生年金の免除条件に当てはまっていなければ、健康保険にも加入しなければなりません。

外国人の厚生年金

厚生年金は日本に住所を持っている20歳以上60歳未満の人であれば、国籍を問わず基本的に加入義務があります。

厚生年金の免除条件とは

基本的に加入義務がある厚生年金ですが、次のような場合は免除されます。

•海外の会社に在籍したまま日本の会社へ出向し、給与を海外の会社が全額支払っている場合。ただし日本国内の会社から一部でも給与が支払われていれば加入しなければならない。
•母国と日本の間に「社会保障協定」が締結されていて、原則5年以内の見込みで出向などにより来日する場合。

他国との社会保障協定について

「社会保障協定」とは、両国の社会保障の制度に加入することによって生じる保険料の二重負担と保険料の掛け捨てを防ぐための制度です。母国が社会保障協定に加入していれば、外国人労働者も年金制度に加入しているとみなされ、年金を受給できるようにする制度です。

現時点の発効状況

日本年金機構によると、2019年7月時点の社会保障協定の発効状況は以下の通りです。日本は22ヶ国と協定を署名済みで、そのうち19ヶ国が発効しています。

・協定が発効済の国
ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・チェコ(※)・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン・スロバキア
※2018年8月に現行協定の一部改正

・署名済未発効の国
イタリア・中国・スウェーデン

脱退一時金は伝えてあげよう

厚生年金は老後の生活を保障するための保険ですが、外国人だと帰国してしまうと年金制度を利用することができなくなってしまいます。また、母国が社会保障協定に加入していない場合は、年金が返ってくることはありません。

そこで、日本で納めた厚生年金を帰国後に受け取れるよう、納めた税金の一部が返金される「脱退一時金」という制度が用意されています。
ただし受給に条件があり、必ずしも満額返ってくる訳ではありません。雇用主は帰国前に最新情報を外国人に伝えましょう。伝えなかった場合、帰国後トラブルになる可能性があります。

「脱退一時金」を受給できる条件は、以下の通りです。

厚生年金または国民年金の加入期間が6ヵ月以上ある
日本国籍を持っていない
日本に住所がない
障害年金などの受給資格がない

脱退一時金の申請は、出国後2年以内に「脱退一時金裁定請求書」にパスポートの写し、年金手帳を添付して日本年金機構に郵送で提出して行います。(電子申請も可)
その他、最新の脱退一時金の請求額やその他詳細については、日本年金機構「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」を参照してください。

外国人の労災保険について

労災保険は正式名称を「労働者災害補償保険法」といい、労働者の仕事中または通勤途中の災害に対する治療やその他の補償を行う制度です。これらの補償は事業主が責任をもって行うものですが、保険料を納めることによって国が事業主に代わって補償します。

労災保険の加入は強制

労災保険の加入は強制となっています。従業員を1人以上雇用しているのであれば、事業主は必ず加入しなければなりません。事業主が保険料を全額負担するため、従業員が保険料を支払う必要はありません。
なお、労災保険には事業主である社長や役員は加入できません。事業主や役員のためには、中小事業主のための労災保険加入制度である「特別加入制度」があります。

労災保険の加入対象者には、日本で就労可能な在留資格を持っている外国人や、資格外活動許可を得てアルバイトしている外国人も含まれます。また、もし在留資格を持っていない不法滞在者を雇用した場合であっても、労災保険は適用されます。

未加入で労災が起きた場合リスクしかない

労災保険の加入は義務化されていますが、加入手続きを行うのはあくまで会社側です。そのため、未加入の場合にペナルティが課されるのも会社側となり、労働者側には過失がないので給付を受けられます。事業主には費用徴収制度が適用され、保険金額の全部または一部と、さらにさかのぼって保険料も徴収されます。

詳しくは、厚生労働省「外国人の費用徴収制度について」を参照してください。

障害が残った場合は帰国しても障害保険がもらえる

外国人労働者であっても、仕事中または通勤中に災害に遭い、治療が終了しても身体に一定の障害が残っており、法令で定められた障害等級に当てはまる場合は障害の程度に応じて年金または一時金が支給されます。
障害が残った状態で帰国した場合は、帰国後も労災保険からの給付が受けられます。支給額は支給決定日における外国為替換算率で換算した邦貨額になります。

詳しくは厚生労働省「労災保険ガイドブック」をご確認ください。

外国人の雇用保険について

雇用保険は労働者が失業した場合に生活を支えるための保険制度です。週の所定労働時間が20時間以上の人、勤務開始時から31日以上働く見込みのある人は加入しなければなりません。基本的には外国人であっても適用されます。

雇用保険の適用除外について

そんな雇用保険の適用が除外される条件は、以下の通りです。

65歳の誕生日の前日以降に雇用された人
(ただし65歳前から雇用され、65歳以降も継続して働いている人は加入対象)
週の所定労働時間が20時間未満の人
継続して31日以上の雇用が見込まれていない人
短時間労働者(35時間未満)で、一定の時期のみ雇用される人
船員保険の被保険者である
全日制の教育機関に通う学生である
個人事業主である
外国の会社で雇用契約があり、その会社の日本国内の事業所に赴任してきた人

ワーキングホリデー制度利用の外国人就労者

ワーキングホリデー制度を利用している外国人就労者は、来日の目的が「就労」ではなく「休暇」であるため、労働時間や雇用契約の期間に関わらず雇用保険の被保険者となりません。なお、「外国人雇用状況の届出書」は提出する必要があります。

全日制の学校に通う留学生

全日制の学校に通う留学生は、原則として雇用保険の加入義務はありません。しかし、以下の場合は被保険者となります。

卒業見込み証明書を有しており、卒業前から就職し、卒業後も引き続き事業所に勤務する人
休学中の者、または出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者で、適用事業において他の労働者と同様に勤務し得ると認められ人

この条件において、週20時間以上の労働時間を満たしていれば雇用保険に加入する義務があります。

外国人の雇用保険に必要な書類と手続き

雇用保険の有無、社員・アルバイトを問わず、外国人を雇用した際はハローワークに「外国人雇用状況届出書」の提出が必要です。
雇用保険の被保険者の場合、「雇用保険被保険者資格取得届」の備考欄に国籍・地域、在留資格、在留期間、資格外活動許可の有無などを記入して届け出ます。

雇用保険に加入しない外国人に必要な手続き

雇用保険に加入しない外国人の場合、「雇入れ・離職に係る外国人雇用状況通知書」に必要事項(氏名、性別、生年月日、国籍・地域、在留資格、在留期間、資格外活動許可の有無、雇入れ年月日など)を記入し、提出します。

まとめ

外国人も日本人同様、大抵の場合は社会保険の加入が適用され、社会保障制度を利用できます。社会保険対象者である外国人を加入させていなければ、企業側に追徴金または罰則が科される場合もあります。

ただし、条件によっては加入が義務付けられていない保険や、免除されるケースもあります。そのため、企業側はまず外国人の社会保険の適用条件について正しく理解しておく必要があります。

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