どの業界でも人材不足が深刻になる中、「採用マーケティング」という新しい手法が注目されています。
顧客の気持ちを掴むために生まれたマーケティングのノウハウは、人事領域でも役立つ手法です。
「応募者の中から選ぶ」のではなく「欲しい人材に積極的にアプローチする」ことで、優れた人材の確保が可能になるのです。
今回は、採用マーケティングの概要から具体的な実施方法まで、詳しく解説していきます。
この記事の目次
採用マーケティングの概要
まずは、採用マーケティングとは何なのか、その概要について知っていきましょう。
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、マーケティングの概念を採用活動に適用した考え方のことを指します。
人材不足の影響で人材獲得競争が激化し、新しい採用手法の考案が必要になったことを背景として広がった概念で、関連本やセミナーも注目を集めています。
求職者を「顧客」に擬えて考え、求職者=顧客を獲得するために、これまでマーケティング領域で確立されてきた手法を応用するという考え方が基本です。
採用マーケティングを導入することで、求職者に対して他の企業とは違ったアプローチが可能になり、企業と採用者のエンゲージメントを高められるというメリットがあります。
採用マーケディングが注目される理由
採用マーケティングが注目される背景には、人材不足と求職者の価値観の変化があります。
以前は新卒で就職した会社で勤め上げるのが主流でしたが、現在は転職が一般的になって人材の流動性が高くなり、さらにその人材の数は年々減少しています。
企業側には、少ない求職者の中から必要数を確保し、エンゲージメントを高めて長期間離れないようにする工夫が必要になっています。
そこで役立つのが、これまではマーケティング領域で用いられてきた、顧客を獲得して離さないようにする手法なのです。
採用マーケティングのターゲット
採用マーケティングを行うには、ターゲットの設定が重要です。
物を売るときやサービスを開発するときには利用者層を明確に定めるように、アピールしたい人材像を明確にする必要があります。
そのターゲットに、的確にアプローチできるような情報発信の方法や内容を考案するのが採用マーケティングです。
採用マーケティングのターゲット区分には、大きく分けて以下の5つがあります。
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- 転職顕在層(現在転職を検討している人)
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- 転職潜在層(具体的な活動はしていないが、機会があれば転職したいと思っている人)
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- アルムナイ(自社を退職した社員)
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- 過去不採用になった応募者、内定辞退者
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- 自社の社員
参照:https://i-myrefer.jp/media/lab/refer/recruitmentmarketing/
採用マーケティングの実施のポイント
採用マーケティングを実施する際のポイントは、以下の3つがあります。
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- データ活用による効率化
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- 魅力のある組織づくり
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- 他社の事例の研究
マーケティング領域では、アンケート結果や売上の変遷など、「顧客データ」が何より重要です。
採用マーケティングでも、求職者のデータを分析して理解することが、ニーズを掴む第一歩になります。
採用管理システムを導入して情報を蓄積・共有し、採用活動を効率化することが重要なのです。
また、いくらニーズを理解しても、採用したい層にアピールできない組織だと採用に繋がりません。
どんなに宣伝に力を入れても、商品自体が良くなければヒットしないように、そもそも求職者が魅力を感じる組織でないと人材も獲得できないのです。
最後に、採用マーケティングは比較的新しい概念なので、具体例や効果を知らないと導入しにくいです。
採用マーケティングは安易に始めるのではなく、他社の成功事例などを研究して方針を定めてから導入するようにしましょう。
参照:https://bizreach.biz/media/12232/#_4
採用マーケティングを導入する方法
それでは、採用マーケティングを導入するためのステップを、具体的にお伝えしていきます。
導入までの4ステップ
採用マーケティングを導入する時には、
- 自社の分析
- 採用ターゲット決定
- ニーズ・アプローチ法検討
- 施策を実施
の順番で方針を決めていきます。
①自社の分析
まずは、社内外から自社を分析することから始めます。
自社の強み・弱み、同業他社の差別化ポイントなどを把握することで、求職者にアピールすべき部分や、今後改善していくべき部分が見えてきます。
後の項目でご紹介するフレームワークなどを駆使して、徹底的に自社を分析しましょう。
②採用ターゲット決定
次に、採用ターゲットを決定します。
ターゲットを定めるための軸は、「年齢」「性別」「居住地域」「学歴」「経験」「スキル」「興味関心」など無限にあります。
自社の強みと欲しい人材像のバランスを取って、重視する軸・ある程度幅を持たせる軸を決めるといいでしょう。
ターゲットを詳細に定めるほどピンポイントなアプローチが可能になり、求職者の気持ちを掴みやすくなります。
③ニーズ・アプローチ法検討
ターゲットを絞り込んだら、そのターゲットのニーズと、それに合わせたアプローチ方法を検討します。
例えば、ターゲットを「正社員復帰を目指している、子育てが落ち着いた30〜40代女性」と定めたとします。
このターゲットの目線で就職先に求めることと、対応するアピールポイントの例を挙げると、以下のようになります。
- 未経験・年齢に応じた経験がなくても安心して働ける=充実した教育制度
- 働く時間や場所の融通が効く=フレックスタイム制・リモートワーク
- 長く働けて、昇給や昇格もできる=明確な昇給基準・女性管理職活躍
また、この層がよく閲覧するSNSやサイトは「Instagram」「Twitter」「Facebook」「YouTube」「まとめサイト」などが考えられます。
このように、ターゲット層とアピールポイント、掲載媒体を包括的に考えることで、ニーズに届く求人が可能になるのです。
④施策を実施
最後に、実際に施策を実施します。
実施後はそのまま放置するのではなく、アクセス数や閲覧時間、反応やコメントといったフィードバックを取得します。
ターゲットの反応を見ながら軌道修正をすることで、よりマッチング度の高い採用が可能になっていきます。
役立つフレームワーク
自社の分析や、ターゲットの設定に役立つフレームワークを4つご紹介します。
3C分析
3Cとは「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの頭文字を取ったもので、自社や業界、市場を包括的に分析し、自社の現状を把握する手法のことを言います。
データ収集やアンケート調査などを通じて、自社や業界を取り巻く「事実」を集めて分析し、自社の強みと弱み、成功要因を客観的に導き出すことができます。
参照:https://cyber-synapse.com/dictionary/en-all/3c-analysis.html
ペルソナ
ペルソナとは、簡単に言うと「具体的なターゲット層」のことです。
ターゲット層というと「30代女性」「中高生」といった粒度で表すことが多いです。
一方、ペルソナの場合はもっと詳細に「氏名」「年齢」「家族構成」「居住地」「職業」「収入」「趣味」「悩み」「よく使うSNS」といった項目まで設定します。
明確に、ここまでがターゲット、ここからがペルソナという線引きがあるわけではありませんが、アプローチする人物像はより詳細であった方が、ピンポイントでエンゲージ度の高いアピールが可能になります。
参照: https://service.plan-b.co.jp/blog/marketing/933/
5A理論
5A理論とは、インターネットやSNS時代を反映させた購買プロセスの理論です。
この理論では、人はインターネットで物を購入するとき、以下のような思考を辿っていると説明されています。
採用マーケティングでも、この順を追った心の動きを意識してコンテンツを作成すると、求職者に効果的にアプローチすることが可能です。
参照:https://www.is-assoc.co.jp/brandinglab/kotler-5a
ファネル
ファネルとは、直訳すると「漏斗(ろうと)」を意味します。
広く集客したうえで、検討・商談といった購入のプロセスを辿っていく中で、徐々に見込み顧客が減っていく様子のことです。
採用活動でも、「求人広告を目にした」「その広告をクリックした」「内容を読んで応募した」…と、順を追うごとに人は少なくなっていきます。
どの段階で、どのくらいの割合が脱落したのかを把握することで、強化する部分やアプローチをかけるポイントがわかるようになるのです。
参照:https://www.innovation.co.jp/urumo/funnel/
使えるツール
採用マーケティングには、「Google Analytics」「オウンドメディア」「SNS」といったツールが使えます。
それぞれの使用目的や強みは、以下の通り。
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- Google Analytics:閲覧者の属性・ページビュー数・滞在時間などがわかる
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- オウンドメディア:自社の認知度をアップできる、実施施策が蓄積して残る
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- SNS:転職潜在層にアピールできる、コストがかからない
採用マーケティングの導入事例
採用マーケティングを導入した企業の事例には、以下のようなものがあります。
まとめ
採用マーケティングは、マーケティング領域のノウハウを人材採用に転用した、新しい概念です。
人の気持ちを掴むという意味では、マーケティングも採用も同じ。
ターゲット層に的確にアピールし、自社への愛着を深めてもらうことで、労働力不足の中でも人材の確保が可能になります。