帰化と永住権は、似ているようでかなり違います。最も大きな点は国籍の場所ですが、戸籍や選挙権など細かな違いも。
今回は、帰化を考えている外国人やその周りの方向けに、帰化と永住権の違いやメリットを解説いたします。帰化申請の手続きについてもご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
帰化と永住権の違いは?
帰化と永住権の違いは、外国人の国籍がどこにあるかです。
その他、帰化すると日本の戸籍を持ったりローンなどの融資を受けやすくなったりということもありますが、もっとも大きな違いは国籍です。
永住権とは
永住権とは、国籍を変更せず日本に永久に住み続ける権利を得ることです。
通常の在留資格には1年・3年・5年などの期限がありますが、永住権には期限がありません。ずっと日本に住んでいても外国人のままなので、日本の戸籍は持たず選挙権や公務員になることも認められません。
また、帰化が取り消されることはありませんが、永住権は1年以上日本から離れた場合には取り消される可能性があります。
帰化とは
帰化とは外国人が日本国籍を取得することです。日本では国籍を2つ以上持つことはできないので、自動的に元々持っていた外国籍は失うことになります。
日本国籍を取得した時点で、母国や人種は関係なく「日本人」となるので、国籍や選挙権など全ての扱いが日本人と同じになります。
当然、在留資格の取得や更新も必要ありません。
帰化の種類
帰化には、次の3つの種類があります。
- 普通帰化
- 簡易帰化(特別帰化)
- 大帰化
それぞれ必要な条件や適用される人が異なりますので、詳しく解説していきます。
普通帰化
普通帰化は多くの外国人に適用される一般的な種類の帰化です。留学・就職・移住など様々な理由で日本に来て、日本国籍を取得したくなった外国人が申請します。
後の項目で詳しく解説しますが、帰化には7つの条件があり、その7つを全て満たす必要があります。
簡易帰化(特別帰化)
簡易帰化(特別帰化)とは、普通帰化より条件が緩和された帰化の方法です。
日本に引き続き住んでいる期間が5年(普通)から3年(簡易)に緩和されるほか、「父母が日本生まれ」「日本国民の子や養子」「元日本人」などの条件があります。
在日韓国人・朝鮮人(特別永住者)の方や、日本人と結婚している外国人に適用されるものです。「簡易」とはいっても帰化条件が緩和されているだけで、手続きのプロセス自体は普通帰化と変わりません。
大帰化
大帰化とは、日本に特別の功労がある外国人にのみ認められる帰化方法です。その人が日本国民になることに大きなメリットがあると認められれば、国会の承認を得て日本国籍を取得することができます。
しかし、今まで大帰化をした人の事例は1件もありません。よほど大功績を挙げなければ大帰化は認められませんし、そもそも希望する人もいないので、一般人には縁のない話です。
帰化することによるメリットは?
帰化するメリットは、日本で日本人と同じ条件で働いたり生活したりできること。
外国籍だというだけで何かと日本人と違う手続きが付きまとうので、日本に長く暮らす人には便利なシステムです。
①日本人の名前に変えることができる
日本国籍を取得すると、日本人の名前に変えることができます。
永住権や他の在留資格でも「通名」は使えますが、本名を変えることはできません。漢字やひらがなの名前が圧倒的に多い日本では、カタカナや聞きなれない響きの名前は浮いてしまうので、これをメリットと考える外国人は多いです。
もちろん、本名を使い続けたいと考える人は、そのままの名前にすることもできますよ。
②日本の戸籍を持つことができる
帰化すると日本人と全く同じ扱いになるので、もちろん戸籍を持つことができます。
日本戸籍がない外国人は、日本人と結婚することはできますが「入籍」はできません。入籍ができるようになるのは、日本人と結婚をする人には気持ちの上で大きなメリットですね。
③在留資格の手続きが不要になる
帰化すると外国人ではなく日本人になるので、もちろん在留資格を持つ必要はありません。通常の在留資格の最長5年ごとの更新は、何かと手間になります。
また、万が一更新できなかった時に強制送還される恐れから解放されるのは、日本に長く住む外国人にとって大きなメリットです。
④日本国籍のパスポートが持てる
国籍が日本になると、もちろんパスポートも日本のものになります。
ビザなしや簡易審査で入国できる国の数が多い「パスポートの『強さ』」で、日本は2018年・2019年と連続で世界1位を獲得しました。自由にどこでも旅行に行けるようになるのも、外国人が帰化するメリットなのです。
⑤国民選挙・地方自治体の選挙に参加できる
帰化すると、日本人として国民選挙・地方自治体の選挙に立候補・投票することができます。
外国人でも、日本に住んでいれば国に税金や保険料を納めなければいけないので、それに対する決定権がないのは不安ですよね。帰化をすれば、国の重要な決定に当事者として関われるようになるのです。
⑥年金を受け取ることができる
帰化していない外国人も、日本に在住していれば年金を支払う義務がありますし、65歳以上になった時日本にいれば受け取ることができます。
しかし、年金が未納になっていれば、当然のことながら支払われる年金もありません。帰化するためには、年金の未納期間がないことも一つの条件になっています。
そのため、帰化することができる外国人は年金の受給要件も満たしやすく、将来年金を受け取ることができるのです。
⑦銀行との取引が円滑になる
外国人も日本の銀行と取引することはできますが、何かと日本人より手続きが複雑。
また、ローンや融資を受けたい時も、外国人だということがネックになって借入可能額が少なくなる場合もあります。
その点、帰化をすれば日本人と同じ扱いになり、手続きがスムーズに。借入可能額も、同じ条件の日本人と同じ額まで引き上げられます。
帰化することによるデメリットは?
帰化することのもっとも大きなデメリットは、母国の国籍を失うこと。
先の項目でも触れましたが、日本では二重国籍を持つことができないので、帰化と同時に元持っていた国籍は剥奪されるのです。
そのため、将来母国で暮らしたくなったり、母国の国民に戻りたくなったりしても、日本人が外国籍を取得するのと同じだけの手続きが必要になります。
また、旅行や帰省で母国に行く時も、長期滞在する場合には日本とその国の間で定められたビザが必要です。
帰化の条件
それでは、外国人が帰化をするための7つの条件を見ていきましょう。
①引き続き5年以上日本に住所があること
まず、帰化したい外国人は、引き続き5年以上日本に居住している必要があります。
「引き続き」は「90日間以上連続で」、または「年間で150日間以上」日本から出ていなかったという意味です。一度でもこれに当てはまってしまうと、「引き続き居住していた期間」は1から数え直しになります。
また、この5年間のうち3年間以上は就労ビザを持ち、就職をして正社員・契約社員・派遣社員などで働いていたことも条件です。アルバイト・パートで働いていた場合や、就労系のビザを持たず学生・無職だった場合、もちろんビザを持たない不法滞在だった場合も帰化申請は通りません。
ただし、日本に引き続き10年以上住んでいれば、就労期間が1年以上で帰化が認められる場合もあります。
②年齢が20歳以上
帰化を申請できるのは、手続き時点で20歳以上の人のみです。
これは海外で成人していても関係なく、韓国では19歳・中国では18歳が成人年齢ですが、日本の帰化要件は「20歳以上」なので帰化は認められません。
ただし、両親が帰化申請をしていて、その子供も一緒に帰化申請をする場合は、未成年でも帰化が認められる場合があります。
③素行が善良であるかどうか
素行が善良であることも帰化の条件です。
- 犯罪歴がない
- 交通違反の履歴がない
- 年金の未納がない
- 税金の未納がない
この4つが主なチェックポイントで、申請時点で年金や税金の未納に気づいた場合は遡って全て支払う必要があります。
④収入と支出のバランス
十分な収入があり、自分や家族の生活を保っていける経済力があるかどうかもチェックポイントです。これは、経済力のない外国人を帰化させると、日本の税金でその人の社会保障を賄わなければいけなくなるため。
失業中の方・破産者・ローンなどの借入が滞っている方など、収入と支出のバランスが悪い人は生計を保てているとはいえず、帰化が認められません。
また、年金保険料の免除・納付猶予を受けている人も「生活が苦しくて年金が払えない」と言っているのと同じなので帰化することができません。
⑤国籍を失うこと
繰り返しになりますが、日本では国籍は1人1つしか持つことを認められていません。そのため、帰化して日本国籍を得ると同時に元の国籍は剥奪されます。
つまり、元の国籍を失いたくないという人は帰化できないのです。
⑥思想による要件
日本の政府を暴力で破壊しようとしたり、それを企てるような思想を持っていたりする人は帰化できません。暴力団・テロリスト集団に所属する人や、それらの活動をしている人が該当します。
⑦最低限の日本語能力
日本で生活していくために、最低限の日本語能力も求められます。必要とされる日本語能力は、だいたい小学校3年生くらいのものです。
読み・書き・会話能力が必要とされ、面接官がその人の日本語能力に疑問を感じた場合は日本語能力テストが実施されることもあります。
帰化申請の方法
それでは最後に、帰化申請の具体的な方法を解説していきます。
①法務局に予約
帰化申請をするには、まず法務局に相談するところから始まります。国籍相談は予約制なので、お住まいの地域の法務局に電話して予約しましょう。
飛び込みの相談を受けてくれる法務局もありますが、先に電話で確認しておいたほうが確実です。
②法務局にて相談
次に、予約した日時に法務局に行って相談をします。
予約の時に持ち物は指示されますが、最低でも
- 外国人登録カード
- 運転免許証
- パスポート
が必要です。
母国の戸籍謄本や、職場でもらった源泉徴収、課税証明書や納税証明書もあれば持参しましょう。
③必要な書類を提出
帰化の要件を満たしていると判断されると、法務局の相談員が必要書類の一覧表を用意してくれます。この一覧表をもとに書類を集め、提出しましょう。
書類の量は膨大なのでここでは全てご紹介しきれませんが、
- 母国での申請者の身元を証明する書類
- 日本での身元・財産状況を証明する書類
- 会社役員や個人事業主の場合、事業を証明する書類
などが必要になります。
④帰化申請書を作成する
帰化申請のメインの書類は「帰化許可申請書」です。名前や住所など基本情報の他に、通称名・父母の氏名・帰化後の名前などを記載します。
また、これに加えて理由書や、親しい日本人や家族からの上申書・嘆願書、地域に貢献している証明となる写真などがあれば、帰化申請がスムーズになります。
⑤法務局との面接予約
書類の準備ができ、チェックを受けたら、法務局に面接の予約をします。
書類の提出から2~4ヶ月くらいで面接の日取りを決める電話がかかってくるので、都合のいい日にちを指定しましょう。
⑥面接
いよいよ、本番の面接です。
面接では、提出した書類の内容を中心に様々な質問が行われます。質問の内容は人によってかなりばらつきがありますが、
- 家族について
- 仕事について
- 年金・税金について
- これから日本人として生きていくことについて
これらの項目には、何を聞かれてもしっかり答えられるよう準備しておいたほうがいいでしょう。
⑦帰化の許可
面接から6ヶ月~1年くらいで、帰化の許可・不許可が知らされます。結果が出るまでの間も、素行要件は見られているので注意してください。
年金・税金は滞納せず払い、軽微な交通違反などもしないよう気をつけましょう。
まとめ
帰化することは、外国人から日本人になるということ。当然、ハードルはそれなりに高いですし、帰化申請には膨大な量の書類と長い期間が必要です。
しかし、帰化には日本に長く住みたい外国人にとってのメリットがたくさん。
帰化を考えている外国人の方は、今回ご紹介した帰化の流れや条件を参考にしてみてください。