テクノロジーの急速な発展により、様々な分野で取り入れられているAI技術。
採用業務も例外ではなく、様々な企業でAIを活用した採用が始まっています。
今回は、採用フローの中でAIが活用できる場面や、採用に使われているAIツールについて解説。
採用にAIを導入するメリット・デメリットや、実際の企業の導入事例もご紹介します。
AI採用とは
AI採用とは、その名の通り、採用プロセスのどこかにAIを導入する採用活動のこと。
選考などの判断を一部AIに任せることにより、人が行う仕事が減り、業務を効率化できるのがAI採用のメリットです。
AI採用の特徴と導入の背景
AI採用が注目されている背景には、AIテクノロジーの発達と、慢性的な人手不足があります。
以前は、AIの機械的な判断では、人の本質や適性を見極める採用業務は難しいとされていました。
しかし技術の発達により、AIの学習能力や判断の質は、採用業務にも携われるほど向上しています。
また、日本の社会は少子高齢化の影響で慢性的な人手不足。
採用競争が激化する中で人事担当者の負担を軽減するため、業務の効率化が求められているのです。
AIは採用において何ができる?
それでは、採用の中で具体的にどのようなプロセスにAIを導入できるのかを解説していきます。
エントリーシート関連業務
エントリーシートの選別などの書類審査は、採用活動の中でもっともAIが活用されているプロセスです。
過去の応募者の書類をAIに学習させ、そのうち合格者の書類の傾向をAIが分析。
新しく届いた応募書類から、過去の合格者に近い傾向があるものをAIが選別することで、書類審査を自動化できます。
現段階では、審査を100%AIが行うのではなく、AIの審査結果を人がチェックするというパターンがほとんどです。
人材・会社の合致度の見極め
求人サイトなどで、AIが人材の特性や会社とのマッチング度の見極めを行っている場合もあります。
募集をする企業側が採用したい人材像を登録しておくと、AIがそれに合致すると判断した人材のフィードに優先的に広告を表示。
応募より前の時点から、広告を閲覧する層をある程度絞ることができ、効率的な採用に繋がります。
総合的な合否判断
企業によっては、総合的な合否判断をAIが行っている場合もあります。
AIの視点は、主観が入りがちな人間の判断よりも客観的で、平等だという考え方もあるのです。
書類審査と同じく、過去の合格者の傾向や、企業が採用したい人材の特徴をAIが学習・分析し、候補者の面接の動画などと比較して合否を決めるという方法を用います。
最終的には人がチェックすることがほとんどですが、AIがあらかじめ合否を割り振ることにより、効率化が可能です。
AI採用に活用されるツール
次に、現在AI採用に活用されている具体的なツールについて解説していきます。
IBM Watson(ワトソン)
IBM Watsonは、IBM社が2006年から開発を行っているAIツール。
採用に特化したAIというわけではなく、様々な分野で業務効率化に活用されています。
採用分野で代表的なのは、ソフトバンクの新卒採用に導入された例で、エントリーシートの分類に使われています。
Watson API(自然言語分類-Natural Language Classifier)を利用し、一定の基準で書類を判断することで、書類の確認にかかる時間を75%削減することに成功しました。
採用支援システム「i-web AI」
i-web AIは、求職者と企業のマッチング度を予測するAIツールです。
求人サイトに登録された、求職者の基本情報や、マイページへのアクセス状況・セミナーへの参加状況・エントリーシート・適性検査などから人材の適性を総合的に判断。
相性の良い企業と求職者を結びつけ、効率的に採用に繋げます。
書類選考AIツール「PRaiO(プライオ)」
PRaiO(プライオ)は、採用業務の中でも書類選考に特化しているAIツール。
求職者から届いた書類を学習し、使われている単語などからその人の特徴をスコアリング。
企業ごとに重視する人物評価の軸と照らし合わせ、マッチング度の高い人材を見つけ出します。
また、書類の内容とネット上の文章を比較し、盗用されていないかどうか調べるコピペチェック機能も搭載されています。
対話型AI面接サービス「ShaiN」
ShaiNは、AIを用いた対話型の面接サービス。
人間の面接官の代わりに、求職者に質問を行い、その回答内容も分析します。
時間や場所を問わず面接を実施でき、客観的かつ平等な評価ができることがメリットです。
吉野家や富士通グループなどの有名企業を含め、約270社で導入されています。
AI採用のメリット
それでは、AI採用を導入するメリットにはどんなものがあるのか、解説していきます。
時間や場所に縛られず試験可能
AIを導入すれば、時間や場所を選ばず選考ができるため、時間的コストや人件費の削減に繋がります。
また、海外からの応募者で、時差があっても面接対応が可能。
さらに、選考フローをスピーディーに進められることで、他社により早く優秀な人材を確保することもできます。
公平な判断が可能
人間が合否判断を行うと、どうしても主観が入ったり、人によって評価基準にばらつきが出たりしてしまいます。
一方AIの場合は、主観が入る余地がないため公平な判断が可能。
採用担当者の感覚やセンスに頼らない、データに基づいた採用ができるようになります。
人事担当者の負担軽減
採用業務を一部でもAIに任せることによって、人間が担当する工数を減らすことができます。
仕事の手間が減って実務的な負担が軽くなるほか、採用という重い責任を伴う仕事を一部AIに分担することで、心理的な負担を取り除くという側面も。
双方の面から、人事担当者のパフォーマンス向上に繋がります。
採用コストの削減
AIの導入により、採用活動を効率化することが可能。
採用期間が長引くと、広告の掲載費・担当者の人件費・応募者の管理を行うシステム費など、様々な費用が嵩みます。
また、マッチング度の低い人材を採用して早期離職が起こると、せっかくかけたコストが無駄になってしまうことも。
こういった無駄をなくすことで、総合的な採用コストの削減に繋がるのです。
AI採用のデメリット
AI採用には、メリットがある反面デメリットも。
まだ発展途上の技術なので、導入の際にはリスクをよく見極める必要があります。
データの蓄積に時間が必要
AIは、まずはデータを学習させないと適切に機能しません。
人工知能と言っても、自動で賢い判断ができるわけではなく、あくまでも過去のデータの蓄積から最適な判断を導き出すシステムなのです。
そのため、AIがうまく機能するようになるまでには、まずはデータを収集し、それを学習させる時間が必要となります。
学習したデータによっては差別が生じる
上の項目で解説しましたが、AIは過去のデータの蓄積に基づいて判断を行います。
そのため、過去の採用実績に偏りがあった場合、その差別が増幅されてしまうリスクがあるのです。
例として、Amazonでは過去に技術職で女性の採用数が少なかったことから、AIが「女性である」というだけで低い評価を下すようになってしまい、AIを使った採用を打ち切りました。
多様性を取り入れるなど、過去のデータにない新たな判断はAIにはできないということを知っておく必要があります。
合否の理由を説明しにくい
AIが行う判断は、過去のデータの蓄積の上に成り立つものなので、特にこれといった理由がない場合があります。
その影に隠れて、人が合否判断をすれば採用していた優秀な人材を見逃してしまうことも。
また、不合格になった求職者から理由を尋ねられた時、「AIがそう判断したから」では納得できない人も多いことが考えられます。
応募者・人事担当者の抵抗感
AIはとても便利な技術ですが、会社の採用という重要な決定をAIが行うということには抵抗がある人も多数。
中には、応募者の抵抗感を懸念して、採用にAIを導入しているかどうか公表していない企業もあります。
実際に、まだ導入事例が少なく、先に挙げたAnazonのような失敗例もあるため、人の目でダブルチェックを行うなど慎重に活用していく必要があるでしょう。
採用活動でAIを活用している企業事例
最後に、採用活動でAIを活用している企業の事例を3つご紹介します。
ソフトバンク
ソフトバンクでは、新卒採用でエントリーシートの審査に「IBM Watson」を活用しています。
自由記述の部分をAIが分析して判断し、最終チェックは人の目で行っているものの、書類確認にかかる時間を75%削減することに成功しました。
代表取締役会長兼社長である孫正義氏は「AIを制する者が世界を制する」と公言していて、将来的には完全な自動化も視野に入れているということです。
吉野家
吉野家では、アルバイトの面接に一部「ShaiN」を導入しています。
吉野家は店舗数が多く、1人の店長が複数店舗の管理を行っているため、面接のスケジュールが組みにくいという課題がありました。
AI面接を導入し、店長に代わって時間や場所を問わず面接を行うことで、面接のキャンセルによる機会損失の削減や、採用業務の効率化を行っています。
サッポロビール
サッポロビールでは、2019年から新卒採用のエントリーシート選考にAIを導入しています。
過去のデータを元に、一定基準を満たしているとAIが判断した書類はそのまま合格させ、落選した書類のみを人の目でチェック。
このシステムを取り入れることで、書類の確認にかかる時間を40%削減することに成功しました。
書類選考のプロセスで削減できた時間を使ってその後の面接を充実させ、よりコミュニケーション重視の採用を目指しています。
まとめ
AI技術の導入は、選考フローの短縮やコスト削減に役立ちます。
しかし、まだ新しい技術ということもあり、失敗例や心理的な抵抗感があるのも事実です。
AIのメリットとデメリットをよく知り、慎重に活用していくことが重要と言えるでしょう。